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斜陽55

「分かりました。エイン」

 それにヒヅキは微笑む。

「むぅ。これが惚れた弱みというやつか」

 エインは悔しげに頬を膨らませると、ヒヅキの手を強く握る。

「……まぁいい。今回も感謝している」

「特に何もしてはいませんが」

 不思議そうに首を傾げるヒヅキに、エインはため息を吐く。

「相変わらずだな君は。君が敵を殲滅してくれたのだろう?」

「敵? ああ、あれは少々邪魔だったから排除しただけですよ?」

「それでも感謝しているのさ。これでは君に対する借りが増すばかりだな。私の一生を君に捧げても、前回分すら賄いきれるかどうか」

「別に貸しとは思っていませんがね」

 ヒヅキは困ったように肩を竦める。

「君が思わなくとも、私は思うのだよ。結果として、私を含めたガーデンの民が救われたのだから」

「やりたい事をやっているだけなんですがね」

「動機が何であろうと、こういうものは結果で評価されるものだよ」

 エインは意味深な笑みを浮かべると、何かを思い出したかのように眉を上げた。

「そういえば」

 エインは先程までの柔らかな雰囲気を引っ込めると、鋭く重い空気を漂わせて問う。

「王妃がコズスィと関りがあるというのは、どういう事だ?」

「そのままですよ」

 ヒヅキはエインに、王妃から聞いた話を語り聞かせた。

「そうか、やはり。……残念だよ」

 確信まではいかなくとも気づいてはいたようで、エインはそう小さく呟くと、目線を下げる。

「君には申し訳ないと思っている」

「王妃が死んだことで済んだ話です。エインは関係ないでしょう」

「……まぁ……そうだな」

 ヒヅキの言葉に、エインは自嘲するように小さく笑う。

「私はね、この件が無ければこうはなっていなかったと思うのだよ」

「?」

 エインの話に、ヒヅキは首を捻る。

「この件で王家に見切りをつけたと言えばいいのかな。そう言う事さ」

「なるほど」

「だがね」

 エインは顔を上げると、泣きそうな笑みをヒヅキに向ける。

「おかげでこうして君に出会えた。君にとっては赦せる事ではないのだろうが、私はその点においては感謝しているんだ。……だから、すまない」

「…………」

 見知らぬ地で独りになった幼子の様な表情をみせるエインを、ヒヅキは無表情のまま数秒ジッと見詰めると、目線を外して呆れたように肩を竦めた。

「それの何に問題が?」

「え?」

「関係無いでしょう」

「だが」

「もしも、あの村が滅んだ事を喜ぶというのであれば、それには私も多少思うところは在ったでしょうが、その後の縁についてまでどうこう言うつもりは在りませんよ。そんな事まで恨んでいては、私が歩む道全ての根幹があの件に至ってしまうではないですか。エインは私に全てを恨んで生きていけと言うのですか?」

「そんなつもりは、ないが……」

「ならばそれでいいではないですか。そんな事で、私はエインを責めたりはしませんよ」

 そう言うと、ヒヅキは開いている手で、エインの頭をポンポンと慰めるように優しく叩く。

「さ、プリスさんが食事を持ってきて下さいましたよ」

 ヒヅキが視線を扉の方へと向けると、それを合図にしたかのように扉が開かれた。

「? いかがいたしましたか?」

 食堂に入ってきたプリスは、場に流れている少し重たい空気に、不思議そうに首を傾げる。

 それに「何でもないですよ」 とヒヅキが返すと、プリスは「そうですか」 とだけ応えて、二人の前に運んできた夕食を並べていく。

「折角だ、またプリスも一緒に食べるといい」

 ヒヅキの手を離したエインは、プリスにそう提案する。

「ですが」

「構わんよ、けじめは付ける。だが、今は私的な場だ。だから、そうしたい気分なのさ。前と同じで」

 断ろうとするプリスに、エインは気にしないと笑いかけた。

「…………では、御言葉に甘えまして」

 プリスはエインのその提案を予想していたのか、一緒に持ってきていた自分の分の夕食もヒヅキの隣の席に並べると、エインとは反対側のヒヅキの隣に腰掛けた。

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