斜陽52
『対策と言われても、どうすればいいんだ!?』
怯えたような表情で問い掛ける冒険者に、周囲の冒険者達が次々と意見を発していく。
しかし、それらは窓枠から外れたところから発せられており、ヒヅキからは確認出来ない。ただ、時折窓枠の横から手が伸びるので、そこに居る冒険者が手振りを交えて語っているのだろう。
『しかし、集団で行動すると言われましても、どう分けるのですか? 同じギルドと言っても、ここには一人しか居ない者も居りますが』
それからも意見は交わされていくが、中々結論が出ないようだ。そんな中、窓に背を向けているシラユリが何かを発言する。
『確かにソヴァルシオンに戻るのも手ではありますが』
どうやらソヴァルシオンに戻る事を提案したようで、他の冒険者達は困った顔をした。
『ですが、折角ガーデンに来たのです。あの忠義の騎士も滞在しているらしいですし』
そんな冒険者へと、シラユリは何かを告げる。
『確かにもう目的は済みましたし、昨日も帰る事に同意しましたが……』
冒険者の一人がそう口にしたところで、他の冒険者が何かに気づき、部屋に集まっている冒険者の顔触れを確認していく。
『……もしかして、殺されたのは昨日あの後も残っていた奴らか!?』
その発言に、周囲の冒険者達も室内に居る参加者の顔を確認していく。
『俺はあの時直ぐに出たから分からないが、そうなのか?』
一人の冒険者の言葉に、別の冒険者が頷いた。
『だが、だからどうなのだ? 確かに偶然にしては出来過ぎてるかもしれないが、あの時部外者は居なかっただろう?』
その冒険者の発言に、他の冒険者も考え込む。
『もしかして、あの後見つかって標的にされたとか?』
考え始めた冒険者達は、思いついたことを口々に発していく。
それからしばらくの間議論していくが、中々結論が出ない。
(……このままいけば、図書館に行く時間が無くなってしまうかもしれないな)
空を見上げたヒヅキは、中天近くまで昇ってきた太陽の眩しさに、目を細めた。
(昼になったら切り上げて、図書館を目指すとするか)
ヒヅキは視線を室内に戻すが、まだ議論している最中の様で、あれやこれやと話し合っている姿が確認出来る。
(さて、そろそろ図書館に向かうとするかな)
何時まで経っても決まらない様子に、ヒヅキは諦めて視線を切ろうとしたところで。
『可能性というのであれば、忠義の騎士なる者の犯行という可能性もあるだろう? あの時、その話題で話し合っていたのだし』
そんな発言を読み取り、ヒヅキは切りかけていた視線を戻す。
『しかし、あの時誰も居なかったが』
『先程誰かが言っただろ? あの後見つかったと。近くまで連れてきていたのだ、見つかる可能性もない訳ではなかろう?』
その冒険者の発言は惜しいところまではいっているが、他の冒険者達からは中々賛同が得られない。
『いや、忠義の騎士は一人だろう? 殺された冒険者は数もいれば、全員同じ宿だった訳でもないんだぞ? それに俺は同じ宿屋だったから知っているが、酒場で急に死んだ奴も居たようだぞ? 他にも客がいたらしいし、こちらは暗殺するのが難しくないか?』
窓枠外の冒険者が何かを言うと、先程の冒険者は首を振る。
『室内で殺された奴の部屋の鍵は壊されていたという。店側が共犯なら、鍵ぐらいは貸すだろうさ』
そんな話からまた議論を始めたので、ヒヅキは見切りをつけて屋根から降りると、移動を開始する。
議論の流れ的には、暗殺は複数犯という感じであったが、ヒヅキとしては別にバレても問題ないと思っていた。
あの場に居た冒険者達とはそうそう会う機会もなく、冒険者の名誉やシラユリの存在もあるので、話が外に漏れるとも思いにくい。たとえ正体がバレたとしても、ヒヅキにとって冒険者の相手は、面倒なだけで脅威ではない。
ただ、ヒヅキ自身に守るべき名誉などはないが、ヤッシュ達が少し気がかりではあった。しかし、もしもそこに手を出してきた場合、ヒヅキは全力で冒険者を潰すつもりでいた。魔砲を用いれば、ソヴァルシオンぐらい容易く消し去ることが出来る。
そういう訳で、急ぎ足でガーデンの中を進んでいく。十分に距離を取ったところで、人気のない場所に移動して存在を消すのをやめた。




