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斜陽45

 宿屋の1階で経営されている酒場に入ると、ヒヅキは直ぐに標的である冒険者三名を見つける。

「…………」

 酒を片手に、わいのわいのと賑やかに会話をする、その冒険者達と周囲の酔客達。

 そんな集団へとヒヅキは正面から近づくも、しかし、ヒヅキの存在に気がつく者は誰も居ない。

 ヒヅキが気配を消している状態は、既に存在を消している状態に近く、それを見破るのは生半可な実力では不可能であった。それこそ、ウィンディーネのような、神とさえ称されるほどに秀でていなければ、無理な芸当である。

 そんな幽霊のように存在を消して近づいたヒヅキは、三人の冒険者がそれぞれ手にしているお酒に、一滴ずつ薬を垂らした。

(さて、希釈しても効果があるのかどうか)

 数歩離れた位置で観察を始めると、早速冒険者の一人が、杯に注がれている酒を(あお)る。

(…………)

 酒を飲んだ冒険者は、そのまま他の冒険者仲間と話の続きを語らいだす。

 そのまま1分ほどが経ち、他の二人の冒険者も話して喉が渇いたのか、味などお構いなしとでも言うかのように、ぐびりぐびりと豪快に酒を流し込んでいく。

 しかし、それだけ経っても、最初に酒を飲んだ冒険者は何事もなく会話を続けている。

 それから三人の冒険者は、杯を空けて次の酒を注文する。その間も、会話は続いていた。

(ふむ。希釈すると効果が薄いのか? それとも酒とは相性が悪いのか)

 三人の経過観察を続けながらヒヅキがそんな事を考えていると、冒険者達が今しがた注文した酒がやってきて、三人はそれを口にしだすが、その杯を机に置いて直ぐに、最初に毒入りの酒を口にした冒険者が机に突っ伏した。

「はは。こいつもう酔いつぶれやがった」

「おい、寝るなら部屋で寝ろよ」

 仲間の二人はそんな冒険者を笑う者と、身体を揺すりながら起こそうとするのだが、それでは机に突っ伏した冒険者は目を覚まさない。

 起きそうもない冒険者に二人は諦め、酒を片手に会話を再開させる。

 しかし、それも長くは続かず、ほどなく二人も机に突っ伏す。その際、手にしていた杯が床に落ち、まだ中に入っていた酒が床に広がった。

 それで給仕をしていた女性が駆け寄り杯を拾うと、杯が無事なのを確認してから、冒険者達に声を掛けた。

 その様子を背に、ヒヅキは宿屋を後にする。

(さて、次の宿屋は……)

 ヒヅキは、顔を次の標的が泊まっている宿屋の方角に向けると、その宿屋への道を進む。

(次が済めば、後はもう一件で数名のみ。それまでに、プリスさんの屋敷から移動してくれればいいが……)

 未だにプリスの屋敷の方面から動いていない女性の気配に、ヒヅキは内心でため息をつく。

(それにしても、あのぐらい希釈すれば、大分遅効性の毒になるな。それに、遅効性の場合は苦しそうな表情は浮かべないようだ。次は酒以外で希釈して試してみたいが)

 先程の酒場での観察結果を頭に思い浮かべて、ヒヅキは毒の効果に満足げに頷く。

(量はまだまだある。そんなに使えるものでもないんだ、こういう時に調べないとな)

 次の実験の内容を思考しながら道を進み、目的の宿屋に到着した。

(ここは昼間の宿屋だな)

 昼間に女性がヒヅキを連れていこうとしていた、冒険者達が集合に使っていた宿屋の前に到着したヒヅキは、改めてその宿屋を観察する。日中はゆっくり観察している暇はなかった。

 その宿屋は、先程の宿屋と同じ3階建てのようではあるが、天井が高いのか、先程の宿屋よりも高さがあるように思える。

 幅も広く、外から窓の間隔を見るに、室内も広いのだろう。小規模であれば、集合場所に使うには十分そうだ。

 こちらは酒場などは経営していないようで、入り口には既に鍵がかかっていた。

 ヒヅキは正面から入るのを諦めると、周囲を観察して入れそうな場所を探す。

 そこで3階に僅かに窓が開いている部屋を見つけたヒヅキは、宿屋の壁を上り、一度その開いていた窓から中の様子を確かめると、慎重に自分が中に入れるぐらいまで窓を開けてから、音を立てないように室内へと入っていく。

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