斜陽41
「それにしましても、こうやってヒヅキさんの鼓動を感じながら一緒に居られるというのは、いいものですね」
幸せそうに微笑むサファイアに、ヒヅキはどう返せばいいものかと、言葉を詰まらせる。
「ヒヅキさんは最近までガーデンにいらっしゃらなかったようですが、何処へ行かれていたのですか?」
ヒヅキに身体を預けたまま、暫くヒヅキの鼓動を聞くかのように静かにしていたサファイアだったが、ふと思い出したかのように、そう問い掛けてきた。
「ガーデン周辺の様子を見て回っていたんです」
実際は遺跡調査だが、ガーデン周辺の遺跡なので、あながち嘘ではない。
「何か分かりましたか?」
「多少は。ですが、望んだ収穫は無かったですね」
「望んだ収穫ですか?」
「はい。色々と知りたかったのですがね。中々」
「……そうですか」
何かを察したのか、サファイアはそれ以上深くは尋ねてこなかった。
「サファイアさん達はガーデンを発ってからは何を?」
「ソヴァルシオンに在る拠点に戻りまして、その後はソヴァルシオンで仕事をこなしつつ、情報収集をしておりましたわ」
「情報収集?」
「ガーデンの情報もですが、他国の現状なども。まぁ、主にスキア関連ですね」
「なるほど。現状はどこも似たようなものでしたでしょう?」
「ええ。ほとんどの国がスキアに襲撃されているようですわね。幾つか蹂躙されつくした国も在るようですし」
「動きが活発ですからね」
「スキアは一体でも厄介な相手ですもの。それが群れて襲ってくるなど、一体冒険者がどれだけ居ればいいのか」
「……ふむ。そうなると、少し急いだ方がいいのかもしれませんね」
「急ぐですか? 何をです?」
「私はこの後エルフの国に向かいますので、それをです」
「エルフの国ですか。スキアの軍勢が襲い掛かっていると聞きますが、それは今のところ撃退出来ているようですわね」
「そうなんですか」
「ええ。確か氷の女王と呼ばれているエルフが、独りでほとんどのスキアを撃退しているらしいですわよ? それでも独りで国を護るには限度があるようですが」
「国は広いですからね。しかし、氷の女王、ですか?」
ヒヅキは記憶を探り、聞いた覚えがないなと首を捻る。
「私は話を聞いただけですが、何でも現エルフ王の娘の最側近を務めている女性で、エルフ最強の女性らしいですわね」
「ほとんどのスキアを独りで倒しているというのであればそれも納得ですが、その方は冒険者なので?」
「いえ。違うらしいですわよ。ヒヅキさんと同じですわね」
「なるほど。それは興味深いですね」
「エルフの国に向かうというのであれば、目にする機会もあるのでは?」
「そうですね。他に何か情報はありますか?」
「他にですか……」
うーんと、サファイアは思い出すような小さな声を出す。
「美人らしいですわよ」
「美人?」
「美貌を誇るエルフの中でも、特に美しいらしいですね」
「そうなんですか。他には?」
「他は分かりませんね。強くて美しいとしか」
「なるほど。ありがとうございます」
「それにしても、エルフの国に何の御用が?」
「知り合いに会いに」
「エルフの国にお知り合いが?」
「ええ。昔の知り合いなのですが、預けている物があるので、それを取りに」
「そうだったのですね。ここへはまた帰ってきますの?」
「エルフの国で用事を済ませた後に、一度戻ってくる予定ですよ」
「そうでしたか! その時には私もガーデンに戻って来ていますので、是非私を訪ねてくださいな!」
「分かりました。戻ったら訪ねます」
「ええ。約束ですよ?」
「はい。その時に会えればいいのですが」
ヒヅキの言葉に、サファイアは余裕のある笑みを浮かべる。
「出来るだけ遠征はしないようにしますわ」
「何もそこまでされなくとも」
「いえ。酒場もありますから、元々私はそんなに遠征はしないのですよ」
「そうでしたか」
「はい。ですから、ご心配には及びませんわ」