戯れ
チーカイの町を出て4日目は雲ひとつない快晴であった。と言っても、今までも晴れの日が続いてはいたが。
「そういえば、曇りや雨の日はどうなんだろう?」
太陽だけが浮かぶ青空を鬱陶しそうに見上げたヒヅキは、眩しさで目を細める。
「日光も月光も雲で遮られると、室内なんかに入った時と同じようになるのかね?」
情報が全く無く手探り状態の現状では、ふと浮かんだその疑問に対する答えを、残念ながらヒヅキ自身持ち合わせてはいなかった。
「……雨でも降らないかな~」
疑問の答えを求めて呟かれたその一言に、
「それは、出来ればソヴァルシオンに着いてからがいいですね」
完全に独り言のつもりだったヒヅキは、その独り言に返答があったことに驚き、声の主の方へと顔を向けた。
「うふふ」
そこには楽しそうに笑うルルラの姿があった。
「えっと………何かありましたか?」
驚き戸惑うヒヅキをルルラは楽しそうに見つめながら、
「いえ、これといって何かがあった訳ではないですよ」
宿屋で会った時と違い、どこか子どもっぽい笑みを浮かべるルルラに、ヒヅキは戸惑いながらも笑みを崩さず対応する。とはいえ、どう対応すべきか頭が痛いことには変わりはなかった。
これが何かしらの下心や思惑があるのなら対応にここまで苦心することもなかったのだろうが、残念ながら目の前で笑みを浮かべているルルラからは、からかい以外の感情は読み取れなかった。
ヒヅキがどう返せばいいかと悩んでいると、それを察してか、ルルラの方から話題を提供してくれた。
「先日、ルリちゃんと何を話していたんですか?」
可愛らしく小首を傾げたルルラの瞳には、隠しきれない好奇の光が灯っていた。もしかしたら最初から隠す気はなかったのかも知れないが。
ルルラのその唐突な問いに、ヒヅキは僅かな時間記憶を遡ることに費やす、挨拶以外でルリと言葉を交わしたことがあっただろうかと。
「……ああ、あれは私の体調を心配されていたので、大丈夫だと返しただけですよ」
「そうなんですか」
ヒヅキの返答に、ルルラは少々残念そうな声音を出す。
(本来はこんな子どもっぽい人なのか?)
先ほどからのルルラの姿に、ヒヅキはルルラの素は子どもっぽいこちらの方なのだろうかと、若干の驚きともに心の中で首を捻った。
「でも、ルリちゃんの方から話し掛けてきたり、相手を心配するなんて珍しいことなのよ?」
ルルラの言葉にヒヅキは印象通りだと納得するも、まだ付き合いの浅いヒヅキには、その言葉の意味を完全に理解することはできなかった。
ヒヅキの表情を見たルルラは、意味深な笑みを浮かべると、「それじゃあね」と言ってヒヅキの側を離れていく。
「あの人はいったい何がしたかったんだ?」
少し離れた場所を歩くガザンの元へと移動したルルラを見つめながら、ヒヅキはただただ首を傾げるしかないのであった。