斜陽39
「ヒヅッキーも色々と大変だったんだなー」
しみじみと口にしたシラユリに、ヒヅキは肩を竦める。
「でも、またこうして無事に会うことができて、私は嬉しいぞー!」
言葉通りに嬉しそうな笑みを浮かべるシラユリに、ヒヅキも微笑みを浮かべる。
「そうですね。お互いに無事でよかったです」
「まぁ、私の方は特に危ないことはしていないがなー」
「普通に生きるだけでも大変ですよ」
「そんなものかー?」
「ええ」
ヒヅキは旅に出る前の生活を思い出し、儚げな顔をした。
「そういえば、傭兵を殲滅してくれたのは、ヒヅッキーだよなー?」
「ああ、そうですね。邪魔だったもので」
「はは! そんな理由であっさり倒せるのは、ヒヅッキーぐらいだろなー」
「そうですかね?」
「腐っても冒険者だからなー。いくら訓練していても、そこらの兵士じゃ一人相手でも簡単には倒せはしないよー」
「まぁ……そうですね」
ヒヅキはシラユリの言葉に同意する。
一般的に冒険者が相手の場合、兵士数人で囲んでやっと可能性が出てくる程度と言われている。
それは兵士が弱いのではなく、冒険者とそれ以外では、基本となる性能が全く異なるのだからしょうがない事であった。それに、兵士同様に冒険者も鍛錬は行っているし、依頼を受けて小鬼討伐なども行ってもいるので、実戦経験も侮れない。なので、シラユリの言葉は間違っていないのだが。
「ですが、あの程度であれば、問題なく兵士達でも倒せたことでしょう」
ヒヅキは傭兵達を一瞬で倒してしまったので、その実力を実際には見ていなかった。
「それはヒヅッキーが強すぎるから分からないだけだと思うぞー」
「そうですか?」
「そう思うぞー」
どこか呆れた様なシラユリの言葉に、ヒヅキは首を傾げる。
そんなヒヅキの様子に、シラユリは相変わらずだな、と小さく笑う。
「ヒヅッキーはこれからどうするんだ?」
「そうですね、この辺りでやることも済んだので、エルフの国に行ってみようかと考えています」
「エルフの国か。あそこは気難しいと聞くけれど、大丈夫かー?」
「まぁ、そうですね。ですが、知り合いに会ってくるだけなので、問題ないと思いますよ」
ヒヅキの言葉に、シラユリは少し驚いた表情を浮かべる。
「ヒヅッキーはエルフに知り合いが居るのかー。ここらでもあまり見かけない種族だというのになー」
「昔、一度エルフの国を訪れたことがあるんですよ」
「なるほどなー。しかし、国境を越えたことがあるのは流石だなー」
「そうですか?」
「普通は中々そんな機会がないのもだぞー。国境を越えるのは簡単なことではないからなー」
「そうですね」
そのために、ヒヅキはエインに通行手形を所望したのだから、国境を越えるというのは、それだけ容易なことではなかった。
「私の場合は、たまたまそんな機会があっただけですよ」
「ますますヒヅッキーはよく分からないなー」
「そうですか?」
「そうだぞー。色々と驚かせてくれるから退屈しないがなー」
「そ、そうですか」
シラユリの退屈しないという言葉に、ヒヅキは僅かに頬を引きつらせた。
「しかしそうなると、またヒヅッキーとは当分会えなくなるのかー」
残念そうに口にするシラユリ。
「シラユリさんはもうすぐガーデンに戻られるんですよね?」
「そうだぞー」
「エルフの国から戻った後になりますが、またここには立ち寄りますので、その時に会えるかもしれませんね」
「そうだなー、遠方に赴く仕事が入ってなければ、また会えるだろうなー」
シラユリは冒険者なので、時折護衛や討伐の依頼でガーデンを離れることがあった。
「そうですね。都合が合えばいいのですが」
「いつ戻ってくる予定だー?」
「決めていませんね。早いかもしれませんし、時間がかかるかもしれません」
「そっかー。気をつけて行くんだぞー」
「はい。シラユリさんも、お身体には気をつけて」
それを区切りとして、ヒヅキはシラユリに頭を下げると、部屋を出ていこうとする。そこに。
「ああ、そういえば!」
シラユリが思い出したようにヒヅキの背に声を掛けた。
「どうかしましたか?」
それにヒヅキは足を止め、振り返る。
「エルフの国に行くなら、途中にある遺跡に寄ってみたらどうだー?」
「遺跡、ですか?」
遺跡という言葉に反応を示したヒヅキに、シラユリ頷く。
「ああ。少し前に知り合いから聞いたんだがなー。最近南の森の中に新しい遺跡が見つかったらしくてなー、その中には罠が多く、奥には強力な魔物が潜んでいるかもしれないという話だったんだー」
「それは、貴重な情報をありがとうございます」
「本当は、その知り合いが一緒に探索する強い相手を探しているんだがなー。まぁ、ヒヅッキーは一緒に探索って柄ではないと思ったから、情報だけ教えておくよー」
「よろしいのですか?」
「まぁ、ヒヅッキーならいいさー。そいつには、ヒヅッキーが遺跡内部を片づけた後にでも探索させるさ。ヒヅッキーは古代の遺物とかあんまり興味ないだろうからなー」
「そうですね。遺物よりも情報の方に興味があります。それに、遺物に関する知識など持ち合わせていませんから」
「だと思ったさー。だから、興味があったら行ってみるといいー。大まかにだが、場所も教えておくからさー」
ヒヅキはシラユリに遺跡の場所を教えてもらうと、感謝の意を込めて深く頭を下げた。
「ありがとうございました。それでは、いずれまた」
「またなー」
手を振るシラユリに見送られながら、ヒヅキは部屋を出ていった。