斜陽33
書斎に通されたヒヅキを、シロッカスは快く迎えてくれる。
シロッカスの勧めるままに、書斎に置かれていたソファーに腰掛けたヒヅキは、シンビが用意してくれたお茶で唇を湿らす。
「それで、南の様子はどうだった?」
そのシロッカスの問いに、ヒヅキは見てきた事と、軍を殲滅してきた事を伝えた。
「なるほど。約一日で殲滅までするとは、流石はヒヅキ君だね……とりあえずこれで危機は脱したが、これからどう転ぶのか」
シロッカスは目を閉じると、思案の姿勢に入る。
政策などにはあまり関与していなかったとはいえ、現王に近しい王族が二人も殺されたというのは、それだけ大きな問題であった、それがたとえ争いの末の結末であろうと。それに、まだ開戦したといえるかは微妙な時であった。
「まぁ幸いと言っていいのか、ヒヅキ君のことはあまり世間に知られていないから、その辺りでどうにかできるだろうが……」
思案しながらぶつぶつと呟くシロッカスに、ヒヅキは当初の予定通りに、直ぐにカーディニア王国を出てエルフの国に行くことを伝える。
「そうか。そうなると、また当分は会えなくなってしまうな」
「はい」
残念そうなシロッカスに、ヒヅキは少し申し訳なさそうに頷いた。
「出立はいつにするんだい?」
「今日にでも、と」
「それはまた急な話だね」
ヒヅキの返答に、シロッカスは困ったように頬をかく。
「せめて今日ぐらいは我が家に泊まっていかないかい?」
シロッカスの提案に、ヒヅキは小さく首を横に振る。
「遺跡調査に思いの外時間が掛かってしまいましたので、直ぐにエルフの国に向かいたく」
ヒヅキはそう理由を述べるも、早く出ていきたい最も大きな理由は、周囲の何処かに居るはずのウィンディーネの存在であった。
「そうか……では、せめて最後にアイリスにも会っていってはくれないか? 朝食の支度も済ませてあるので、それも食べていってほしい」
「分かりました。では、お言葉に甘えさせて頂きます」
そのシロッカスの提案に、ヒヅキは感謝を込めて頭を下げる。
「それは良かった。では、朝食の準備が整うまでの間、もう少し何か話をしようではないか」
二人は朝食が出来るまでの間、色々な話を交わしていく。
◆
「なるほど。また計ったかのように現れたものだ」
王宮の執務室で、プリスからの報告を受けたエインは、呆れたようにそう口にする。しかし、口元は僅かにほころんでいた。
「そして、無様なものだな」
そう言ってエインが視線を向けた先では、二つの首が置かれていた。
「後片付けは済ませたのか?」
「現在行っている最中かと」
「まぁそれなりに数が居たみたいだからな。とりあえず、王に書状でも出しておくか。それらは罪人として晒してもいいが、王に送り返してもいいな」
エインは頬に指を当て、少し思案する。
「これらがしでかした事を考えれば、晒すべきだが……王の元に返すのも、正直面倒だな。……しょうがない、こちらで秘密裏に埋葬だけして、死んだことを王に伝えるか。甚だ遺憾ではあるが、今は公表を控え、後日病気か何かで死んでもらうとしよう……幸い、元々そう公表していたしな。はぁ。王家の威信なぞどうでもいいが、王家が絶対的ではない以上、これ以上の失墜も考えものだしな。ま、この辺りは王へと丸投げするか」
エインは疲れた息を吐き出した。
「それが済んで王が帰ってくれば、私は外に出るかな……直ぐにはいかないだろうが。それで、彼は今どこに?」
「現在探している最中です」
「そうか。その王妃が関与していたという、コズスィの話を訊きたいのだがな」
エインは手元の資料を一枚手にすると、それへと目を向ける。
「全く。中々にしぶといものだ」
もう一度資料に書かれている文字を目で追ったエインは、呆れたようにそう口にしたのだった。