表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
380/1509

斜陽31

「終わったかしら?」

「ええ」

 突然耳に届いたウィンディーネの声に、ヒヅキは足下に転がる王妃の首を無感情に見下ろしながら頷く。

「でも、よかったの?」

「何がですか?」

「殺してしまって」

「訊きたい事は聞けました。他は知りませんよ。別にこの国に愛着もありませんし」

「あら、やっぱり冷たいわね」

 からかうようなウィンディーネの声に、ヒヅキは首を傾げる。

「そうですか? ここで赦す様なら、そもそも襲撃なんてしませんよ。そんなきれいごとに興味はありませんし」

「ふふ。そうね。それでこそヒヅキよ」

「……そうですか」

「それで、これからどうするの?」

「一度ガーデンに戻りますよ。これはまぁ、付いてきている人が片づけてくれるでしょう」

「ああ、そこそこ隠密行動が上手なあの人間ね」

「ええ」

 ヒヅキは踵を返すと、天幕を出ていく。

「それにしても、上は面倒ですね」

「そうよ。それでいながら、下は勝手に期待して、思い通りにいかなければ逆恨みしてくる。実に勝手なものよ」

 ウィンディーネの呆れた物言いには、実感がこもっているように思えた。流石に崇められていただけのことはあるのだろう。

「しかし、ヒヅキも面白い斬り方をするものね」

 その声に、ヒヅキは野営地内を歩きながら、近くに倒れている死体に目を向ける。

「ウィンディーネは血がお嫌いのようなので」

「そうね。私は綺麗好きなのよ」

「ですから、また洗われても困りますので、血が出ないようにしたのですよ」

「あら、それは残念。ヒヅキを洗うのは楽しかったのに」

 機嫌よさそうなウィンディーネの声に、ヒヅキは苦笑の形に口元を歪める。

「さて、帰りぐらいはのんびりしますか」

 野営地を出たヒヅキは、ガーデンへと向かって歩みを進めていく。

「しかし、居るのが判っているとはいえ、突然話し掛けられるのは慣れませんね」

「あら? それじゃあ姿を現しましょうか?」

「それは騒ぎになるので、遠慮してください」

 ウィンディーネは自分を見た相手を魅了するらしいので、現在姿を消してもらっているのであった。

「他の姿になればいいんじゃないかしら?」

「その姿では魅了されないので?」

「それは無理ね。私は存在するだけで、周囲を惹きつけてしまうから。だから、人前では喋らないでしょう? この状態でも、多少は効果があるのよ?」

「でしたら止めてください」

「そうね~。崇められるのも疲れるもの。ヒヅキのように、私の魅了が効かないなら問題ないのだけれども。ヒヅキは特別ですものね」

「まぁ、私もウィンディーネに多少は魅力を感じていますよ」

「多少で済むのなら、効いてないわよ」

「そうですね。惹かれる以上に、私はウィンディーネが恐いですから」

 そう言うと、ヒヅキは肩を竦めた。

「ふふ。大丈夫よ。私はヒヅキに危害を加えるつもりはないから」

「……今のところは、でしょう?」

「ふふふ」

 ヒヅキの言葉に、ウィンディーネはただ楽しげに笑うだけで答えない。

 そんなウィンディーネに、ヒヅキは小さく息を吐いた。

「もうすぐガーデンですので、また大人しくしていてくださいね」

「ええ、解っているわ。群がられても迷惑ですもの」

 その言葉と共に、ウィンディーネは静かになる。

 それを確認したヒヅキは、ガーデンの門を通るのではなく、密かに壁を越えて中へと入っていくのであった。





「全て片が付いたようですね」

 去っていくヒヅキの背中を確認した影は、闇の中から姿を現すと、周囲に目を向ける。

「相変わらず規格外の方ですね。まさかこうもあっさりと殲滅されるとは」

 そこら中に転がっている死体を確認しながら、影は中央の大きな天幕の中に入っていく。

「これで一先ず終わりですか」

 そこに転がる二つの首を見た影は、少し安堵の声を出した。

「あの方が仰った言葉が気にかかりますね」

 ヒヅキが森の中の名も無き村で、最後に影へと問うた内容を思案するように、影は王妃へと目を向ける。

「……まぁとりあえず、今は後処理を開始しますか」

 そう言って二つの首を回収した影は、それを持って一度闇の中に戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ