道中
翌日。
ヒヅキは目が覚めると、まだ寝ぼけている頭を起こすために、一度辺りに視線だけを巡らして周囲の状況を確認すると、目をおもいっきり瞑ってからぐわっと大きく見開いた。その後で上体を起こしてあくびをひとつすると、久しぶりによく眠れた感じがして、気分良く伸びをした。
「何か夢を見てた気がするけど………何だったっけ?」
昨夜変わった夢を見た気がしたヒヅキは、その夢の内容を思い出そうと中空の一点を見つめながら懸命に頭を回転させるも、結局は思い出せずに諦めたのだった。
◆
ソヴァルシオンへの移動中というのは、今のヒヅキにとっては苦痛との闘いになりつつあった。
「数日前は楽しみだったんだけどな………」
数日前の外の世界への憧れや期待からくるワクワクとした感情を思い出したヒヅキは、現状と比較して、そっと苦笑を漏らした。
それでもソヴァルシオンへ行くのを諦めるという選択は、ヒヅキの中には全く思い浮かばなかった。
もしそうしたところで何の解決にもならなかっただろうが。
ヒヅキが苦痛に耐えながらも、それを面には出さずにソヴァルシオンへの道を歩んでいると、ふと隣を歩くルリがこちらを見上げていることに気がついたヒヅキは、不思議そうに首をかしげた。
それにルリは何も応えることはなく、ただじっとヒヅキの方を見上げている。
ヒヅキは困ったように微笑を浮かべながら、頭を回転させる。
(そういえば、昨日心配させたんだったか)
昨日の会話とも言えない短いやりとりを思い出したヒヅキは、それに当たりをつけて未だに黙ってこちらを見上げているルリに言葉を掛ける。
「昨日も言っ……いましたけど、体調の方は大丈夫ですよ」
ルリの幼い見た目のせいで、つい子どもに話し掛けるような言葉遣いになってしまいそうになったのをすんでのところで修正すると、心配不要とばかりに優しく微笑みかけたが、無意識のうちにその微笑みには子どもに対するような微笑みが微量ではある混在していた。
それに気づいたかどうかは定かではないが、ルリはヒヅキに平坦な声で一言「そう」とだけ返すと、やっと進行方向へと顔の向きを戻した。
それを確認しながら、ヒヅキはルリをいまいちよく分からない人だと改めて認識したのであった。