未知を既知にする為に
出来る限り日陰を移動したとはいえ、平地での街道にそうそう大きな陰などある訳もなく、あってもたまに街道脇に生えている木ぐらいのものであった。それも多くても数本が密集しているぐらいのものである。それでも、ただ単に木陰で休憩するというだけであれば過不足はないのだろうが、ヒヅキの事情的には気休めにもなりはしなかった。
そんな地獄の日中は太陽が沈むことで終わりを迎えるも、それで地獄自体が終わりを迎える訳ではなかった。
「月の明かりがこうも憎らしく思える日が来るとはね」
ヒヅキが街道を歩きながら自嘲気味に笑うと、隣を歩いていたルリが不思議そうに見上げてきた。
それにヒヅキが何でもないと言う言葉とともに笑顔で首を振ると、ルリはそっと前を向いた。
そんなルリの姿がまるで本当の子どものようだと感じたヒヅキは、すぐさま申し訳なかったと心の中でルリに謝罪した。
月が夜空の高いところからゆっくりと降りてきてどれだけ経っただろうか、六人は道中にあった背の低い雑草が生える平野にテントを2つ張ると、外に見張り番を二人置いてから、残りの四人は早々にテント中へと入って休んでいた。
「……………」
ヒヅキはテントで横になりながら天井を見上げる。その目はテント越しに夜空を透視しているかのような遠い目をしていた。
「月も太陽と同じで、直接の光を遮ればある程度は不快感は軽減されるようだな………」
テントに入った時から不快感が我慢出来る程度に軽減されている事実にヒヅキはホッとすると、この不快感の正体について思考を巡らす。
「まず判っている………判ったことは、太陽と月両方が変異しているということと、この現象について少なくとも他の五人は気づいてないということ、あとは常人なら発狂してもおかしくないほどの不快感を感じる以外には何もないことと、直射光を遮れば不快感は軽減出来るということだけか………」
そこでヒヅキは小さくため息を吐いた。
「対処法が早々に判ったのは行幸ではあるけど、結局のところ、不快感の正体については未だ解らず、か。根本的な解決はまだまだ先かね」
ヒヅキは困ったように頭をかくと、少しでも寝ようと目を瞑る。昨夜は一睡も出来なかっただけに、僅かな睡眠でも今は欲していたのだから。
そして、微睡みの中、ヒヅキが意識を手離す直前、どこからか少年とも少女ともつかない中性的な聞き覚えのない声が聞こえた気がした。「ああ、退屈だ」と。