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斜陽19

 暗闇の幕が下りた夜の世界。厚い雲が空を覆い、月の光は遮られていた。

 虫の泣き声も聞こえない闇夜の世界に、風に乗ってパチパチと木が燃える音が聞こえてくるが、それに時折バチンという一際大きな爆ぜる音が混ざる。

 他には男達の話し声が聞こえてくる。中には女の声も混ざっているが、近くにはあまり居ないのか、数はそう多くはない。

 その声の主達は火を囲って座り、周囲にはかがり火が焚かれている。その火を囲んでいる者達以外にも、周囲を警戒している者達の姿を、かがり火の灯りが照らし出していた。

 そんな一団が、平原に大きく広がり野営を築いていた。その野営の中央付近には、周囲よりも大きな天幕が二つ張られ、その出入り口には見張りが立っている。

「…………」

 その野営の様子を、プリスは木々の合間から気配を消して観察していた。

 野営が築かれているのは、ガーデンにほど近い森の外縁部。プリスの居る森から少しだけ距離を取った草原であった。

 その一団とは、王妃と第二王子が指揮を執るガーデン侵攻軍ではあるが、ガーデンにほど近い位置だというのに、野営内はどこか緩い雰囲気が漂っている。まるで、ガーデンからの奇襲など(はな)から考えていないように。

 しかし、それもそのはず。ガーデン侵攻軍がこの地に野営を築いて、既に7日が経過していた。その間、ガーデンから何かしらの軍事的な行動は一切見られない。それに、戦力差は歴然としていた。

 現在は降伏勧告を送っている為に待っている状態ではあるが、実際は少し違う。

 降伏勧告の返答を待っているというのもあるにはあるのだが、一番の問題は、指揮官の片方が不在という事だろう。

 現在、野営中央に建てられている指揮官用の天幕には、王妃しか居なかった。名目上もう一人の指揮官である第二王子は、少し遅れている。その理由はとてもくだらないものであったが、それはプリスにとっては誤算であった。

 プリスがこの野営の観察を始めてこれで4回目の夜になるが、二人が揃っていない為に、中々行動に移せないでいた。

 遅れてやってくるはずの第二王子の状況が判らない以上、下手に動くわけにはいかない。それで警戒が厳しくなってしまっては、計画に支障をきたしてしまう。

 というよりも、王妃と第二王子を同時に始末しなければ戦端を開くきっかけとなり、ガーデンへの攻撃が開始される可能性があった。そうなっては、ここに来た意味が無くなってしまう。いや、それで報復の為に攻撃が苛烈になってしまっては、目も当てられない。

 その為に、プリスは観察を続けながらも辛抱強く待っているのだが、未だに第二王子がやってくる気配はなかった。傭兵や兵士達の話からは、その辺りの情報は何も拾えない。おそらく詳しい話は知らされていないのだろう。

 プリスは観察を続けながら思案すると、思い切って事情を知っていそうな人物の近くに寄ってみようと、闇を背負って移動を開始する。

 長い間野営の様子を観察していたので、何処にどれだけの人員が配され、どういった順序と時間で見張りや見回りが行動しているのかは把握していたので、プリスは誰にも見つかることなく、野営中央の天幕まで近寄ってみせる。

「…………」

 天幕周辺にはあまり人が配されていない為に、プリスは天幕の影に入り、そこから中の様子を窺う。

 耳をそばだてると、天幕の中から女の声が聞こえてきた。

『全く、玩具が必要だなんて、あの子もまだ子どもね。手のかかる子だけれど、成長はみられるのよね。やはり、扱うならあれぐらいが丁度いいわ。……それにしても、玩具が必要ならば現地で調達すればいいのに。それこそ、もうすぐ最高の玩具が手に入るでしょうに。まぁ、持ってくるのはお気に入りなのかしら? 早く戻ってくればいいのだけれど……それにしては、時間が掛かっているわね。どこまで取りに行ったのかしら? 明日も戻ってこないのであれば、迎えを送った方がいいかしら?』

「…………」

 そこまで聞いたプリスは、まずはエインにこの事を報せておこうと思い、早々に闇に溶けるようにその場を後にした。

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