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斜陽16

「母上!」

「あら? これは私の愛しいゴリオンじゃないの。どうしたの?」

 王宮の廊下を歩いていて王妃に、第二王子が声を掛ける。

「何か良い事でもありましたか?」

「そう見える?」

「はい。とても機嫌がよさそうに見えます」

「そう」

 第二王子の言葉に、王妃は少し驚いたように眉を持ち上げた。

「それは気を付けないといけないわね」

「それで、何があったのですか?」

 第二王子の問いに、王妃は周囲に目を向ける。

「ふふ。少し思うように事が運べそうなだけよ」

「では!」

「ふふふ」

 興奮したような第二王子の声に、王妃は楽しげに微笑む。

「それは、これからどうなるかによるわね」

 王妃は確信のあるような声音でそう言うと、第二王子と共に国王の待つ部屋まで移動する。





「ならぬ。それだけは許可できない」

 国王は頭を横に振ると、頑として譲らぬ口調で王妃の言葉を拒絶する。

「しかし、もうそれしかありません!」

 王妃は手に持つ報告書を掲げて国王に訴えるも、国王は手元の同じ報告書に目を落とした後に、冷淡な目を王妃に向けただけであった。

「スキアに踏み荒らされたカーディニア王国の再興の為にも、今が大事な時なのです! その為にも、王の下に国民が一致団結するべきなのです!」

「その為にガーデンを攻めると?」

「はい。残念ながら第三王女はガーデンを不当に占拠したまま明け渡す気はないようですし、既に自分を王に見立てているとも聞きます」

「それで? 仮に本当にそうだったとして、ガーデンの民は受け入れているのだろう?」

「逆らえないだけですわ! スキアを殲滅するような力を手元に置いているような人物に、どうして逆らえましょうか!!?」

 王妃は胸を痛めているかのような悲痛な声で、必死に国王に訴える。

「もしそうだとしても、それはこちらにも言えよう?」

「と、仰いますと?」

「ガーデンを攻めた場合、その矛先はこちらに向く、という事だ」

「その時は冒険者が相手をします。我らはその間に反逆者を見事誅してみせましょう!」

「……反逆者、か。ふぅ」

 国王は短く息を吐くと、王妃に冷めた目を向けて問う。

「その根拠は?」

「我らを殺そうとしたのが何よりの証拠!」

「エインがやった、という証拠はないが?」

「他に誰が居るのでしょうか!?」

「料理人や給仕などの使用人に、この中の誰か。可能性を挙げればきりがなかろう?」

「確かに可能性だけでしたらそれもあるでしょう。ですが、あの場に配していたのは私が信頼している者達です。唯一料理人だけは違いますが、そこをあの娘が衝いたのでしょう」

「毒見の者はどうする?」

「効果が出るのが遅い毒を使ったのではないでしょうか?」

「ふぅ。その理屈では、エイン以外にも可能ではないか」

 国王は王妃へと何かを問うような目を向けるも、王妃はそれを気づかぬ振りをする。

「料理人は素性が確かな者達ばかりです。そんな者達に毒を盛らせるとしたら、それなりの地位の者でなければ不可能でしょう」

「……そこまでして攻めたいのか?」

「むしろ、何故王はそこまで庇われるので?」

「真実を知りたいからだよ」

「では、討つのではなく捕縛いたしましょう」

「…………」

「書状は既に送られました。しかし、明け渡す気はないという。では、他に手はないではないですか!」

「明け渡さぬとは書いていなかったが?」

「今すぐ明け渡さないというのであれば、同じ事です。それに、あれから随分と経ったというのに、犯人が分からないというのも悠長に過ぎるとは思いませんか?」

「……はぁ」

 国王は頭を数度振ると、疲れたような声を出す。

「ならば勝手にするがいい」

「畏ま――」

「ただし!!」

 王妃の返答の前に、国王は強い口調で言葉を紡ぐ。

「私は出陣せんし、私の旗を掲げることは許さぬ」

「……それでは、最早ただの私闘ではございませんか!」

「そう言ったのだ。今回私がガーデンを攻めるような事は無い」

「それは……」

「陛下が出陣なさらぬ以上、私もここに残りますので」

 言い淀んだ王妃へと、第一王子がそう発言する。それに王妃が目を向けたところで。

「では、私が母上に助力すると致しましょう!」

 第二王子がそう言って間に入る。

「そうか……では、ガーデンを攻めたいのであれば、二人で攻めるがよい。それに関して私は関知しないでおくのでな」

 何か言いたげにする王妃ではあったが、口を閉じると、頭を下げて第二王子を連れて退室した。

「はぁ」

 王妃達が出ていき扉が閉まると、国王は大きなため息と共に困ったように目元を覆った。

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