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斜陽13

 老執事の言葉に、エインは探るような目を隠すことなく老執事に向ける。

「それをお前が何故知りたい?」

「スキアを撃退したという者の事は不明な部分が多すぎて、真偽自体が不明なために、こちらでも答えが出ていないのです。ですので、是非御教え願えないかと」

「ふむ」

 懇願するように軽く頭を下げた老執事に、エインは冷たい目を向ける。

「真偽なら事実だ。だが、その者について詳しく語るつもりはない」

「何故で御座いましょうか?」

「何故も何も、何故語らねばならない? 真実だと伝えたのだから、それで十分だろ?」

「いえ、それは……」

「お前が持ってきたこの手紙には、あの日の夜について聞きたいという事と、ガーデンに戻りたいとしか書かれていないぞ?」

「……手紙の内容について、私は存じ上げません」

「そうか。ならば、書かれていたのはそれだけだ。そして、先程の話はしたし、陛下がガーデンに戻られるのであれば、こちらは歓迎する用意がある。私には、ここは広すぎて苦痛なだけだからな」

 エインは、机の上に置かれている何も書かれていない紙を一枚取ると、それに何かを書いていく。

「陛下に書状を(したた)める。それを持って帰るといい」

「御高配痛み入ります」

 老執事は表情を隠すように頭を下げる。その間もエインは筆を走らせていく。

「それで、ソヴァルシオンでの生活はどうだ?」

 手紙を書きながら、エインは老執事に問い掛ける。

「不自由は御座いませんが、やはり不慣れな場所では色々と気苦労がありますようで」

「そうか……あそこは冒険者の街だから、色々と大変であろうな」

「はい。冒険者の方々は、王族が、特に王がソヴァルシオンに滞在することをあまり快く思っていないようですので」

「まぁ現状を考えれば、政治を嫌うというのもあるが、ガーデンでの一件も関係しているのだろうな」

「冒険者の方々を怒らせたという一軒でしょうか?」

「ああ、そうだ」

「なるほど。それでしたら納得で御座います」

「何かあったのか?」

「いえ、ソヴァルシオンに移って間もなく、スキア討伐に力を借りられないかと模索したのですが……」

「なるほど。無理だろうな」

「はい。動いては頂けませんでした」

 今でもまだ冒険者達の怒りは冷めていない状態なのだ、ソヴァルシオンに移って間もなくでは、あまりに早すぎる話であった。

「それで、どうしたんだ?」

「兵士だけでは数も少なく、手をこまねいておりました」

「ふむ」

 エインは一瞬何かを考えるような仕草を見せるも、直ぐに机の上に意識を戻す。

「そうしているうちに、スキアが撃退されたという話が届きまして」

「なるほど。そういえば、最近ガーデンでも冒険者を見るようになったな」

「そうなのですか?」

「ああ。何かを探っている様で、色々訊いて回っていたな」

「……何を調べていたのでしょうか?」

「お前と同じでスキア関連だろうさ」

「そうで御座いましたか」

「ああ。ほら、これを持って行ってくれ」

 エインは書状に丁寧に封をすると、それをプリス経由で老執事に渡した。

「確かにお受け取り致しました」

 老執事はプリスから恭しく書状を受け取る。

「ああ。間違えなくしっかりと、陛下に届けてくれ」

「勿論で御座います」

 エインの言葉に、老執事は了承の礼をみせる。

「それで、なんだったか……ああ、ガーデンの住民や兵士に聞き込みを行いつつ、ガーデン周辺を調べているようだな」

「そうで御座いますか。やはり冒険者の方々も気になるようですね」

「まぁ、そうだろうな」

 エインは机の上で指を組む。

「やはり、お教え願えませんか?」

「ん? その事ならその書状に記したぞ」

「そうで御座いましたか」

 エインの言葉に、老執事は謝罪するように頭を下げた。

「それでは、御前を失礼してもよろしいでしょうか?」

「ん」

 老執事の言葉に、エインはプリスへと目配せをする。

 それに応えたプリスが、老執事と共に外に出ていこうとしたところで、

「ああ、そうだ」

 エインは老執事の背に声を掛ける。

「何か御座いましたでしょうか?」

 それに老執事は振り返り、エインの顔を見ながら問い掛ける。

「陛下はご壮健かな?」

「……はい。恙無く」

「そうか。……引き留めて悪かったな」

「いえ。それでは」

 老執事はエインへとお辞儀をすると、プリスと共に退室した。

「ふぅ」

 二人が執務室から十分に離れたところで、エインは疲れから息を吐き出す。

「あれがあんな行動に出る原因は一つだけか。全く、陛下の最側近とも呼べる男が信用できないとはな……覚悟を決めておかねばならぬということか。それにしても、君は今何処に居るのかな? こういう時にこそ、君に私の傍に居てほしいのだが……はぁ。上の者が個人の力に頼る時点で、私も重症だな。それでも、私は……」

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