斜陽11
ソヴァルシオンにある、王宮の一室。そこは王宮の端の方に在り、人気はあまりない。
その部屋で、王妃が傭兵達から調査報告を受けていた。
「前の報告とあまり代わり映えしない様に思えるのだが?」
途中まで報告を聞いた王妃は、不機嫌そうに傭兵に問い掛ける。
「それ以上の事は分かりやせん。その忠義の騎士とやらの正体は誰も知らねいようでして」
「これだけの事を成した人物が知られていないというのは、奇妙な話ね。実在はしていたのだろ?」
「へい。民衆だけではなく兵士にも確認しやしたし、痕跡も調べやしたが、実在したとみてまちげえねぇかと」
「先程の現在は不在というのは?」
「へい。それが、ここ数ヵ月姿を見た者がいねぇようでして、何か活躍したという話も確認出来やせんでしたので、不在もしくは死んでいる可能性も」
「なるほど。そういう可能性もあるか。それで、あの娘の様子は?」
「へい。殿下――」
傭兵の言葉に、王妃はじろりと傭兵を睨め付ける。
「――あの娘は、王宮に籠っているようで、あまり姿を表には出さねぇようです」
「病気か何かということか?」
「いえ、そういう訳ではねぇようでして」
「チッ。兵力の方はどうなっている?」
「へい。冒険者が数名居るみてぇですが、他は普通の兵士だけのようで」
「そう」
王妃は頷くと、何かを考えるように少しの間、口を閉じた。
「……それで、街の様子はどうだった?」
「へい。活気に満ちてやした。ただ、前ほどの盛況さはまだありやせんでした」
「ふむ。して、復興の状態は?」
「それが、以前にも報告しましたように、復興というほどの傷はねぇようでして。唯一傷跡が残っている南の第一の門も、瓦礫は撤去され、再建は順調に進んでいるようでして」
「チッ! あれだけやって被害が門一つ? あの状況であの娘が無事なのも解せない! 一体何をしたら無事でいられるというのか? それにしても、何なのだ! 私の計画の悉くを邪魔する忠義の騎士とやらは!!?」
王妃の苛立ち混じりの声に、傭兵達は僅かに肩を跳ねさせる。王妃はこぶしを握ると、傭兵の代表に問い詰めるような鋭い目を向けた。
「ほ、本当に分かりやせん! 報告した以上の情報は何処にもありやせんでしたので!!」
「スキアの大群を単騎で倒せるような化け物だぞ! それが無名な訳がなかろう!? それに扱う魔法は、目立つうえに珍しい光の魔法だという。それならどこかしらに情報は転がっているはずだろ!!」
抑えきれない怒りが混ざる王妃の声に、傭兵達は僅かに目を伏せる。
「本当に情報がねぇんです! 様々な者に訊くだけでなく、ガーデンとソヴァルシオンの図書館でも調べやしたが、何もありやせんでした。その忠義の騎士だけでなく、光の魔法も記録がほとんどねぇんです」
切実に訴えてくる傭兵に、王妃は一度大きく深呼吸をすると、感情を落ち着けた。
「ならばまぁいい。それで、スキアは居なくなっていたんだな?」
「へい。ガーデン周辺にはおりやせんでした。流石にカーディニア王国全土となると難しいですが、ガーデンからは居なくなったとは断言できやす!」
「そうか」
王妃は少し考え、口を開く。
「スキアも冒険者も居ないんだな」
「へい。先程報告したように、冒険者は少数ならおりやすが、調べた限りでは問題ない数かと」
「なるほど……それで、最後にもう一度訊くが、本当にその忠義の騎士とやらは不在なのだな?」
王妃の力強い眼光に、傭兵は喉を鳴らす。
「へい。住民や兵士の話によると、最近は姿も目にしねぇうえに、活躍もねぇという事でした。それに、あっしらが実際にガーデンを歩き回っても、それらしい姿は確認出来やせんでしたので、間違いねぇかと」
「そう。ならいい。……件の忠義の騎士だけは厄介だからな」
王妃は一つ息をつくと、その場に居る傭兵達を見遣る。
「とりあえず王を説得してくるが、まだあれが戻って来ていない以上、攻め入るにはもう少し時間を要するだろう。しかし、いつでも出られるようにだけはしておけ!」
「へい!」
傭兵達が頭を下げると、王妃は満足そうに頷いた。
「あと少し、もう少しだ。やっとこれで一歩踏み出せる」