林道
ジリジリ身を焦がす太陽の熱より心身を蝕む正体不明の不快感に苛まれながらも、それを強引に意識から排除するという荒業で無理矢理に意識の外へと追いやると、少しだけだが、気分が落ち着いた気がしたヒヅキは、気を引き締めてソヴァルシオンへと続く道を歩んでいく。
しかし、そんな荒業を用いても、警戒の必要性を感じたヒヅキは、完全にその不快感を意識から追い出すことが出来ずにいた。その結果、ある程度は気分が優れたとはいえ、その小骨のように僅かに残った不快感は、まるで精神を蝕む類いの遅効性の毒であるかのように、少しずつ少しずつヒヅキの精神を侵食しているように感じられ、思わずまだまだ遥か遠くにあるソヴァルシオンの方へと視線を向けた。
「旅はまだまだ始まったばかりだ」
ヒヅキは少し弱気になっていた自分に活を入れるべくそう呟くと小さく握りこぶしを作って、街道が通る林の中へと入っていく。
「……………」
街道を覆うように張り出した林の木々に遮られ、日光がまばらにしか射さないその道を進んでいると、ヒヅキは不快感が若干軽減されていることに気がついた。
「………日光を遮れば良いのか?」
ヒヅキはその仮説を検証するために、あえて積極的に陰だけを進んでみたり、日光が当たる場所を選んで歩いてみたりした。そうして出した結論は、
「ふむ………やっぱりそうなのか?」
先ほどの仮説が正しいのではないか、という結論を得られたヒヅキは、極力街道に出来ている陰から陰へと移りながら進む。
幸い、現在は林の中を進んでいるので、陰には困らなかったが、先を確認したヒヅキはそれももう終わること知り、盛大にため息を吐きたくなった。
「……まぁいいか、対処法が判っただけでも。これが月にも有効だと良いな」
そして、とうとうそんなことを現実逃避気味に呟いたヒヅキを、太陽の光が包み込んだのだった。