斜陽10
少女は管理者の言葉に残念そうな表情を浮かべる。
「しかし、ソレイユラルムほどのギルドが手柄の横取りかー」
「ソレイユラルムというよりも、ギルド本部の意向ですかね」
「面子かー」
「はい。小鬼討伐には時間と労力を掛けたらしいので、その結果、村人が倒しましたでは体面が悪いのでしょう」
それに続いて、「僕には理解出来ませんが」 と、管理者は一言感想を添えた。
「なるほどなー。まぁ、ギルドの信用にかかわるからなー。でも、それではカタグラまで使って確認する意味が無くなるんだよなー」
少女は呆れた様にそう言うと、肩を竦めた。
「今回依頼については、ギルド本部もですが、話を聞く限り各ギルドも小鬼討伐を軽く見過ぎていたきらいがあるように感じましたからね」
「どういう意味だー?」
「小鬼討伐に行った冒険者は、若手ばかりだったようですよ。おそらく若手育成が目当てだったのでしょうね」
「若手育成ね―」
少女は嘲笑するように口角を持ち上げる。
「そしてこの結果ですからね。小鬼の抵抗が強かったのもあるのでしょうが」
「別に冒険者達はそれでもいいさ。でも、奪われる側である村人達はたまったものではないな」
「それは、確かに」
「まぁ、済んだ話はとりあえずここまでとして、その新しく見つかった遺跡ってのはどんなものなんだー?」
「地下に広がる遺跡でして、罠満載の厄介な遺跡ですね。奥にはおかしな気配も漂っていました」
「おかしな気配?」
「あれは多分魔物ではないかと」
「魔物かー。また厄介な相手だなー」
「ええ。それも、僕では対処出来なさそうな濃い気配でしたね。おかげで入り口付近しか調べられていません」
「それで、何か出たのか―?」
「文献と思われる物が一つ。現在調べている最中なので、まだ中身については不明ですが」
「そっかー」
「ですから、もっと調べたいのですが、時間もなければ戦力もありません」
「依頼でも出せばどうだー?」
「それも手ではありますが、おそらくあの遺跡はかなり手ごわいので、無駄に犠牲者を増やすだけでしょう」
管理者は残念そうに頭を振る。
「ま、管理者で無理なら無理なんだろうなー」
遺跡調査の腕だけではなく、管理者は冒険者としても結構な腕前を持っていた。
「そうでもないですよ。冒険者の中には、僕よりも強い方はいらっしゃいますから」
そう言うと、管理者は少女に問い掛けるような目を向ける。
「私は大した事ないぞー。一人でスキア一体も満足に倒せないしなー」
少女の発言に、管理者は怪訝な表情を浮かべる。
「普通は、たとえ一体でも単独でスキアを倒すのは不可能だと思いますが。それこそ、そんな芸当が出来そうなのは、この街でも数人程度かと」
「ま、そうだよなー。普通はそうなんだよなー」
少女は苦笑するように笑う。
「でもそれが居るんだよ。一体どころか、単独でスキアの群れを倒すような者が」
管理者ははじめ少女が冗談を言っているのだと思い、少女の表情を観察したのだが、その表情に冗談を言っている雰囲気はみられず、管理者は思わず驚愕に大きな声を出した。
「本当にそんな人物がいらっしゃるんで!?」
「居るぞー。冗談みたいに強いやつがなー」
「それは興味深いですね!」
「だろー。私も興味津々だー!」
少女はどこか得意げに、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「それならば、その方に遺跡調査の同行を頼みたいですね」
「それは難しいかもなー」
「そうなんですか?」
「忙しそうだからなー。それに、管理者がここを離れたら、またあの子達を呼ぶのか―?」
「そうなりますね」
「あの子達も暇ではないだろうになー」
「それでも他に居ませんから。それに三人居ますので、今まで通りに交代制で何とかなるでしょう。待遇も破格なモノなんですよ?」
「その分制約が凄いがなー。ここは機密も多いからなー」
「まぁそうですが、彼女達なら大丈夫ですよ」
「信頼してるんだなー」
「でなければ、ここの管理は頼めませんよ」
「それもそうだなー」
少女は調べていた書物を閉じると、それを本棚に戻し、次の本を取り出した。