斜陽9
「しかし、何故急に光の魔法なんて珍しい魔法に興味が?」
示された書物を読み漁っている少女に、管理者は不思議そうに問い掛ける。
「今、地上では光魔法の話で持ち切りなんだぞー」
「そうなんですか!?」
少女の説明に、管理者は驚くと共に納得した顔で頷いた。
「相変わらず世上には疎いなー。ガーデンでな、その光の魔法と思われる魔法を使用して、スキアが撃退されたらしいぞー」
「そのような事が!! それは是非この目で拝見したかったですね!! しかし、だから他にも同じように光魔法について調べに来たのですね」
「他に?」
「ええ。二人ほどここを訪れましたよ。聞いた話では、上の書庫でも同じように調べに来た者が居たとか」
「そっかー。まぁそうだなー」
「調べ物では、ここ以上に最適な場所はそうそう在りませんからね」
「そうだなー。ここはギルドが集めた様々なモノが眠っているからなー」
「情報はとても大事ですからね」
「管理者が言うと嘘臭いなー」
「そうですか?」
「管理者は、情報よりも遺物が好きなだけだろー」
「まぁそうとも言いますが、それを解析するのも好きですよ? 勿論管理も」
「たまに、あの子達にここの管理を押し付けて、自分で遺物探しに行くぐらいだからなー」
「はは。本当にあの三人には感謝していますよ」
「あんまり押し付けるなよー。あの子たちはあの子達で仕事があるんだから。というか、特に最近は多いという話を聞いているぞー?」
少女は書物から顔を上げると、管理者へと非難めいた目を向ける。
「はは……。最近、この近郊に新たな遺跡が見つかったんですよ」
「ん? そんな話は聞いていないがー?」
管理者の言葉に、少女は怪訝そうに首を傾げた。
「それは一部の者しかまだ知りませんから。国ですらまだ把握していないかと」
「ふぅん?」
話を聞いた少女は、胡散臭げな声を出すと、肩を竦めて書物に視線を戻す。
「それで、どこで見つかったんだー?」
「森です。この近くの」
「近くって、北か? 南か?」
ソヴァルシオンの周囲には平原が広がっているが、その平原の先で近くに在る森というと、北西側のガーデンとの間に在る森か、南側の国境との間に在る森ぐらいであった。
「南です。少し遠いですが、前に小鬼が狩られた近辺だったかと」
「小鬼、ねー。確か、そんなのがあったと聞いたような、聞いていないようなー」
そんな少女の反応に、管理者はああ、という顔をする。
「そういえば、拠点がガーデンに方に在るのでしたか」
「そうだよー」
「では、知らないのもしょうがないですね」
「どんな依頼だったんだー?」
「確か――」
管理者は依頼の内容を思い出しながら、ぽつりぽつりと少女に説明していく。
「また大規模な依頼だったんだなー」
「はい。よく知りませんが、それだけ手強かったのでしょう。結局、ソレイユラルムの若手が壊滅させた事になったみたいですよ」
「……事になった?」
管理者の妙な言い方に、少女は眉根を寄せて管理者の方を向く。冒険者はカタグラという映像記録装置を使って記録を録っているので、不正は難しいはずであった。
「僕も軽く聞いただけですが、小鬼の本拠地は、近隣の村人が落としてしまったらしくて」
「ほぅ。だが、何故それで手柄の横取りを?」
少女は僅かに剣のある声を出す。同じ冒険者である少女にとって、その不正は許されざる行為であった。それを黙認したギルドにも疑義の念を抱く。
「なんでも、その村人と共闘したといいますか、村人の少年が譲ったらしいです。それでも報酬はギルドマスターから渡されたようですが」
「村人の少年? 少年が長をしていたのかー?」
「いえ。聞いた話では、一人で小鬼を壊滅させたらしいですよ」
「それはどんな村人だー?」
村人の中にも強い者は居るが、ギルドに依頼が出されるような案件を、個人で片付けられる村人とは如何ほどのモノなのかと、少女は興味を抱いた。それに、そんな少年が居るのであれば、最初から依頼を出す必要はなかったのではないかとも。
「すいません。容姿などの人物像についてまでは詳しく聞いていないです」
「そっかー」
しかし、管理者から返ってきたのは、そんな返事であった。