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斜陽8

 昔々、遥か昔の物語。

 あるところに平凡な少年が居りました。

 その少年は特筆すべき点の何も無い少年でありましたが、ある時魔法の力に目覚めました。

 少年が目覚めたその魔法は、光の魔法。古来より英雄の魔法と呼ばれる輝かしい魔法。

 最初、少年はその魔法の力に戸惑いましたが、人助けを行う為に旅に出ることを決めます。

 その旅の中で少年は成長していき、様々な人を助けていきました。

 時に、輝かしく光る剣をその手に持ち、強大な魔獣に立ち向かい。

 時に、闇を払う太陽の如き光で魔獣の巣を探索し、またその光で街の暗部を暴きました。

 時に、神々しき光をもって、押し寄せるスキアの群れを一瞬のうちに殲滅し。

 時に、慈愛に満ちた浄化の光にて、悪しき呪いを消し去り。

 時に、荘厳な光で悪魔を拘束した。

 他にも様々な活躍を見せていく。その姿は正しく英雄と呼ぶにふさわしく。成した偉業は古の勇者を凌いでいく。

 それでも、その英雄の名も姿も後世に語られる事はなかった。

 全てを奪われ、人々から忘れ去られたその英雄は、それでも最期に世界を救った。誰の記憶にも残らぬ偉勲。

 そんな英雄の(いさおし)を語るは、この世のモノとは思えぬ麗人のみ。

 時も時代も世界さえ越えて、その麗人は語り聞かせる。共に旅したその英雄の勇壮さを。

 しかし、いくら語れど人々の記憶には残らない。記憶を記録する事もままならない。





「ふーむ?」

 本を閉じた少女は、難しい顔で首を傾げた。

「なんだこれはー?」

 物語のような始まり方をしながら、途中から記録のようになり、最後は日記のように綴じられていた。それによく見ると、所々書き直された跡や、消された形跡も見て取れる。

「分かりません。しかし、貴重な情報ではあるのです」

「そうなのかー?」

 少女は信じられないという顔で、管理者を見詰める。

「はい。この筆者が語る英雄については不明でありますが、光の魔法について語られている貴重な資料でありますし、何より、最後の方に語られている、麗人が記録されている貴重な資料なのです」

「それはどんな人物なんだー?」

「古の王国の記録や、貴族の家に代々伝わっていた物語などに僅かに記録が残っている人物で、現実離れした美貌と、見事な剣を携えていたそうです」

「ふーん? その人物とこの人物は同一人物なのかー?」

「おそらくは。記録には、その麗人は誰も知らぬ英雄について語ったと書かれているのです」

「だからといって、これに書かれている人物と同じかは分からないじゃないかー」

「ええ。ですが可能性はあります。ですから、もう一冊の時を越えた旅人が欲しいのです」

「どういう事だー?」

 管理者の言葉に、少女は説明を求めるような目を向けた。

「その時を越えた旅人というのは、おそらく件の麗人について書かれていると思われるのです」

「なるほどなー。それで、この麗人は何をしたんだ?」

「知識を持っているんです」

「知識?」

「はい。古来からの様々な知識を。誰も知らないような事や存在自体知られていない話など、その知識量はあまりにも飛び抜けているとか」

「ほぅ。それは凄いなー」

「記録にある王国や貴族などは、麗人の助言に従った事で繁栄したらしいですね」

「それで、その麗人はどうなったのだー?」

「ある日突然消えたらしいです」

「消えたー?」

「はい。特に何かを盗られたという事はなく、それどころか、与えた褒賞の品々が手つかずで残っていたとか」

「ふーむ」

「その後、麗人が消えた事で繁栄に陰りが見えてきたらしいです。しかし、そんなに脆いものではなかったようで、それから何代かは続いたみたいですよ」

「その麗人なら知りたい事を全て知っているのかねー」

 管理者の言葉を聞いた少女は、何かを思うようにそう呟いた。

「その可能性はありますね」

「そっかー……少なくとも、光魔法については知ってそうだなー」

「ええ。麗人が語る英雄が使っていたらしいですからね」

「そっちの英雄については本当に何も判らないのかー?」

「はい。その物語以外には記録は一切ありません。精々が麗人が語ったという記述ぐらいで、詳しい事は不明です」

「そうなのかー」

 管理者の話に、少女は残念そうにそう口にする。

「それ以外の光の魔法ですと、あの辺りに壁画などがまとめられた書物がありますから、それに書かれているぐらいですかね。もしくは、上の図書館にある童話か」

「そっかー。助かったよ、ありがとなー」

 少女は管理者に礼を言うと、管理者が示した辺りの本棚へと移動した。

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