斜陽7
ギルドというモノは、共同体である。その共同体も二種類に分類される。
一つは、一般的にギルドもしくはギルド本部とも呼ばれる、全ての小さなギルドを内包する大きな共同体。
もう一つは、○○ギルドや固有名詞などで呼ばれる、大きな共同体としてのギルドの外延とでも呼べる小さな共同体だ。
大きな共同体であるギルド、そのカーディニア王国での本部はソヴァルシオンにあり、ソヴァルシオンにある本部の建物地下には、ギルド関係者にのみ閲覧が許されている図書館がある。
その図書館は途轍もなく広く、地下三階分の面積を誇っている。その広さは、地表にある大図書館でさえ霞むほどで、カーディニア王国どころか、他国にもこの図書館に匹敵する規模の場所は少ない。そんな全ての本が揃うとも言われる図書館は今でも拡張していて、蔵書は増すばかり。
そんな図書館の更に下にある階には、ギルド関係者の中でも、限られた者しか立ち入れない空間があった。
広さは上の階の図書館ほど広くはないものの、それでも一階部分の半分以上を占領していて、そこにある本の山は貴重なモノばかり。
しかし、そこは図書館というよりも倉庫と呼ぶ方が正しい場所で、置かれているのは何も本ばかりではない。
その倉庫は、眼鏡をかけた穏やかな雰囲気の男性が管理をしていた。主にその男性が独りで管理しているが、稀に一人ないし二人の女性が管理している時もある。
今日はいつも通りに男性が独りで管理していると、倉庫の中に誰かが入ってくる音が聞こえてきて、男性は顔をそちらに向ける。
「おや、これは珍しい」
入ってきた相手に、倉庫の管理者の男性は、驚いたような表情を浮かべた。
「久しぶりだなー。元気にしてたか―?」
「ええ。ここをしっかり管理するためにも、僕は元気ですよ」
「そうかー。それは良かったなー」
来客である少女は、そう言って男性に安堵の笑みを向ける。それは見た目よりもずっと大人びた笑みであった。
「それで、本日はどのような御用件で?」
「ちょっと本をなー……ああそうだ、ここの管理者なら分かるかもしれない」
「何でしょうか?」
「光魔法について何か知らないかー?」
少女の問いに、管理者はうーんと首を捻る。
「光魔法ですか……そうですね……幾つか思い当たるものは在りますが」
「おぉ! 流石だなー! それで、どんなものだー?」
少女は身を乗り出すようにして、管理者に近づいていく。
「ほとんどが伝承の類いではありますが、光る武器の話が多いですね。後は……街一つ吹き飛ばした魔法とか」
「街一つを?」
「ええ。太古の都市らしいですが、一瞬で消し去ったらしいです」
「そんなに凄い魔法なのかー」
「ですが、行使者も程なくして亡くなったそうです」
「そうなのかー」
管理者の言葉に、少女は複雑な声を出す。
「他には……小規模な爆発も起こしたようですね」
「ふむふむ」
「そういえば、光の魔法を扱う者の物語が何処かに保管されていましたね」
「どんな話だー?」
「少々文体がおかしいのですが、物語というよりも、途中から断片的な記憶を忘れないように記録していっているようなものになっていまして。それも書いている端から忘れていっている様な……えっと、確かこの辺りに」
管理者は本棚の一角に移動すると、背表紙を目で撫でていく。
「ああ、ありました」
そう言うと、管理者は一冊の本を本棚から丁寧に抜き取り、少女へと差し出した。
「奪われた英雄?」
少女は管理者から差し出された本の題名を読むと、慎重に受け取った。
「それには、もう一冊同時に出された本があるのですが、その本はここにもありません」
「ここにも無いとは、どんな本なんだー?」
「確か、題名は『時を越えた旅人』、というモノだったと思います。資料によりますと、その奪われた英雄と共に旅した者の、後の物語だとか。しかし、詳しくは不明です」
「なるほどなー」
「何も知らない者にとってはただの童話だと思いますが、僕のような好事家には、もの凄く価値のある本ですね」
「どれぐらいだー?」
「そうですね。慎ましく暮らすのであれば、赤子が働かなくとも一生暮らせるぐらいですかね」
「それは凄いなー」
管理者の言葉に、少女は驚愕しつつも、手元の本に目を向ける。
「なら、これもかー?」
「ええ。勿論」
「そっかー」
少女は感心するように頷きながら、表紙を捲って中身を読み始めた。