斜陽5
その後もしばらく冒険者達は意見を交換し合うも、あまりに常識外の話に、なかなか結論が出ない。
「そもそも、俺は光の魔法というモノを見たことがないんだが、誰か知らないか?」
冒険者の一人の発言に、皆が周囲の者に目を向ける。
「…………」
「…………」
そんな中、シラユリとサファイアは互いに目を向け、どうするかと目で語る。
誰も発言しない事に、問い掛けた冒険者は困ったように肩を竦めた。
「誰も見たことがない魔法について議論するのは難しいだろう。もしかしたら、本当にそんな出鱈目な魔法が存在するのかもしれないんだからな」
「逆に、これだけ居て誰も知らないのだから、存在しない。という事で、噂は噂でしかないという事にはならないか?」
誰かの発言に、誰かが反論する。そうやって議論が続き、陽がすっかり沈んた頃になって、ガーデンへの再度の調査隊派遣と、各自が報告にあった光魔法やその使い手について調べること、他にスキアを殲滅出来そうな魔法や人物は居ないかなどの調査をするという事に決まった。
それが終わり、各自が自分のギルドに帰る為に、ソレイユラルムのギルドハウスを出ていく。
少し遅れて、シラユリとサファイアも一緒に外に出ると、他の冒険者達が周囲に居ない場所へと移動する。
「さて、この辺りでいいでしょう?」
「そうだなー」
少し横道に入った辺りで、周囲を見渡したサファイアがそう口にすると、シラユリも同意した。
「それにしても、ヒヅキさんは相変わらずですわね」
「なー。まさか独りでスキアを殲滅してしまうなんて考えもしなかったぞー」
二人は互いに顔を見合わせると、苦笑めいた笑みを浮かべた。
「それでも、無事なら何よりですわね」
「そうだなー。まぁ、あのヒヅッキーがそう簡単にくたばるとは思えんがなー」
「それはそうですが、それでも心配だったんですよ」
「とにかく、スキアが居なくなったようだが、これからどうするんだー?」
「もう少し様子を見たら、ガーデンに戻るかもしれないですわね」
「なるほどなー。こっちは分からないなー」
「そういえば依頼、来ました?」
「なんのだー?」
「王妃からですよ」
「あぁ、あの偽装してた依頼かー。あんな判りやすい偽装も初めてだったが、あそこまで舐めた依頼者も珍しいよなー」
「ですわね。結局何処からも受けてもらえなかったようですし」
「……いや、そうでもないぞー」
「え?」
少し声を落としたシラユリに、サファイアは驚いた表情を浮かべる。
「何処かのギルドが受けたんですの?」
「ギルドではなく、冒険者がなー。正直、あれらを冒険者と呼ぶには抵抗があるが」
「……なるほど。あの傭兵どもですか」
二人の間に剣呑な空気が漂う。
様々な理由からギルドに所属することなく、万屋の真似事を生業としている冒険者の事を、ギルドに所属している冒険者達は、皮肉を込めて傭兵と呼んでいる。他にもいくつか呼び名はあるも、そのどれもが蔑称である為に、あまり人前では使われない。
「そ。あの王妃さまは、一体何をしでかす気かねー?」
「まぁ分かりやすいとは思いますがね」
「さてさて、ヒヅッキーは今どこで何をしているのかねー?」
「それによっては、状況が変わるでしょうね」
「まぁね。あれらは腐っても冒険者でもある訳だからなー」
「手を貸します?」
「あれらは冒険者の恥部ではあるが、現段階ではまだ干渉するつもりはないなー」
「ですわね。他の方々も同じでしょう」
「中にはやり返したい奴もいるかもしれないがなー」
「そうですわね。傭兵だけではなく、あの王妃達も我々冒険者を冒涜していますからね」
二人は呆れたように肩を竦めると、揃ってガーデンがある方角の夜空に目を向けた。