斜陽4
ソヴァルシオンは1000平方キロメートル以上の広大な面積を誇る、とても広い街だ。人口もそれなりに多いが、街が十分広い為に、窮屈ではない。
しかし、最近スキアが襲来したことが原因で、ガーデンを拠点に活動していた冒険者や住民達がソヴァルシオンへと大挙して押し寄せてきた為に、一気に人口が増していた。それに、スキアが原因で流れてきたのは、何もガーデンからばかりではない。
それでも全員を受け入れるのに十分な広さはあるはずなのだが、既にソヴァルシオン内には様々な建物が建っていて、土地は限られていた。幸いなのは、ほとんどの冒険者が拠点をソヴァルシオンにも持っていた事だろうか。
流れてきた住民は、ソヴァルシオンに居る知り合いや家族を頼り、裕福な商人などは、宿屋の部屋を長期間借りて滞在している。中には共同で空き家を借りたりしている者達も居るが、あぶれた者も出てきていた。
そういった者達は、街中に在る公園や路上に寝泊まりしていたが、次第に街の一角に浮浪者が集まりだし、新たな貧民街が築かれようとしていた。
そんな流民に関する様々な問題を抱えながらも、ソヴァルシオンは、尚も流民を受け入れている。というのも、ソヴァルシオンがカーディニア王国最後の砦になりつつあるからだ。街の許容量はまだ余裕があるので、後は色々な整備が間に合うかどうかだろう。
しかし、最近になって、ガーデンでスキアを撃退したという話が流れてきていた。それが事実であれば、流民の一部はソヴァルシオンを離れていくことだろう。
「それでー、噂の方は事実だったのかー?」
その話の真偽を確かめる為にガーデンに向かわせていた者達へと、シラユリは問い掛けた。
現在シラユリが居るのは、ソヴァルシオンにあるソレイユラルムのギルドハウスの一室。会議室と思われるその広い部屋には、シラユリの他にも様々なギルドから代表者が集結していた。特にガーデンを拠点にしていたギルドの関係者が多い。
「はい。我々各ギルドから派遣された調査隊は、手分けしてガーデンの周囲およそ100キロ圏内を調べましたが、スキアの存在は確認出来ませんでした。それと並行して、ガーデンでの聞き込み調査も行いましたが、スキアは撃退されたらしく、エイン王女殿下が祝勝の宴を、街を上げて行ったそうです」
「どうやってあれだけの数のスキアを?」
「それが……俄かには信じがたい話ですが、住民の話では、忠義の騎士なる者が単独で全てのスキアを殲滅したと」
「単独で? 流石にそれは……」
報告者の言葉に、場に白けたような空気が漂う。
「その忠義の騎士? とかいう者の特徴は?」
「確か……頬に大きな傷のある男らしいです」
「冒険者なのか?」
「冒険者ではないという話が多かったです」
「他には? 何を成したとか、詳しい話は聞かなかったのか? どうやってスキアを殲滅したとか」
「はい。どうやらガーデンはスキアに一度夜襲を受けたらしく、その際に南門の一番外側の門が一つ破壊されたようなのですが、その時に忠義の騎士が現れ、押し寄せる何百とも何千とも言われるスキアの群れを、光の尾を引きながら殲滅したと」
「光の尾? それになんだその出鱈目な数は」
「それが、どうやらその忠義の騎士は、光の魔法の使い手の様で、次にガーデンを取り囲んでいたスキアを一気に殲滅した際は、太陽を地に落として焼き尽くしたという話も。その際一気に殲滅したスキアの数も、同様に数百から数千らしく――」
「はっ。そんな法螺話ではなく、もっと現実的な話はなかったのか?」
「いえ、それが……」
「ん? どうした?」
報告者の話に大半の冒険者が呆れた様な顔をする中、鼻で笑った冒険者の言葉に、報告者は言いにくそうに口を開く。
「ガーデン北部に、その太陽を落とした時に出来た、と言われている巨大な穴が実在しておりまして」
「北側の巨大な穴、ね。我らがガーデンを離れる際には無かったものだな。大方、スキアが何かして出来たのだろう」
まるきり信じていないその言葉に、他の冒険者も同意の頷きを返す。しかし、中にはもしかして? という表情をみせる冒険者もそれなりに居た。そんな中。
「おい、おっぱい!」
「ま、でしょうね。それ以外ありえませんわ」
シラユリとサファイアは僅かに目線を合わせると、小声で短く言葉を交して、周囲とは別の意味で呆れたように頷く。たとえ、話にある人物とは人相が違おうとも、それが誰の仕業なのかを、二人は考えるまでもなく確信していた。