斜陽2
それからも王妃の演説のような説明は続き、それに第二王子も加わる。
その話を聞く度に、国王はその話を信じられなくなっていた。
(意識を失う程の毒を盛られて、不調は一切なし)
あれから目を覚ました国王と第一王子の体調は、すこぶる良かった。どこにも障害は残っていないし、不調もまるでない。それは運がよかった、処置が迅速だった、そういう種類の毒であった、など理由を考えれば色々と思い浮かぶも、それでも国王は、どこか不自然に感じていた。
程なくして二人の説明が終わると、話は振出しに戻る。
「ですから、大罪人であるあの娘を捕らえるべきです!」
「しかし、エインはスキアを退け、国を救ったと聞く」
「それは作り話でしょう。確かに多少のスキアは倒したようですが、ガーデンを囲んでいた大量のスキアを退けられるとは到底思えません。それも、あの時冒険者はほとんどガーデンには居なかったはずです。それでどうやってスキアの相手が出来ましょうか!?」
「だが、そういう話が伝わってきているのもまた事実。それに、実際にスキアが居なくなっているのも確認出来たのであろう?」
「それは、何らかの理由でスキアが何処かに移動したのを、これ幸いとあの娘が利用して、作り話を喧伝しているだけです」
「では、スキアは何処に行った?」
「それは……未だ不明ではありますが、倒せるはずがありません」
「ふむ」
冒険者抜きでスキアは倒せないのは事実ではあるが、だからといって必ずしもそうと決まった訳でもない。
「ですから、今の内にガーデンをあの大罪人から奪還し、次なる戦いに備えるべきです!」
「戻るのは構わないが、どうやって戻る? お前達の話では、私は暗殺されかけたのであろう?」
国王は王妃にそう問うが、先程までそのことで揉めていたのだ、答えなど分かりきっていた。
「まずはガーデンを明け渡すように書状を。その後、断られた場合は派兵を!」
「書状は書こう。だが派兵はしない。それに、そもそも肝心の兵がここには居ないではないか」
ソヴァルシオンは冒険者の街。それは半ば自治が認められているが故にそう呼ばれているのである。街の警固や警備の全ても冒険者が担っていた。
それでも兵士が少しは駐留しているし、様々な面でソヴァルシオンは国と連携をしているが、反面援助も受けている部分もあるために、独立している訳ではない。それでもソヴァルシオン内においては、国の威光というものは非常に弱かった。
「冒険者を集めればいいではないですか。そこらの兵よりも強く、消耗しても我々に損害は少ない」
だからこそ、王妃の現実的ではないその発言に、国王はため息を吐く。
「……それは無理だ。そもそも、冒険者は国の介入を嫌う。今回スキアに共に当たったのは、特例だと思え」
それぐらい解っていたはずだがと、国王は王妃の言動に、内心で首を捻る。
「問題ありません。既に冒険者の確保は出来ております!」
「ん?」
王妃の突然の発言に、国王は怪訝な表情を浮かべる。
「お忘れですか? 冒険者と一言で言っても、様々に居るのを」
「どういう……ッ、そなたもしや!」
「はい。ギルドに所属していない冒険者を雇い入れました」
冒険者は全てギルドに所属している訳ではなく、中には傭兵紛いの事をしているはぐれ者達も居る。そもそも冒険者とは、普通の者よりも身体能力が優れている者の事を指す。正確には全く違うが、一般的にはそんな認識で問題なかった。
「……元から戦争をするつもりだったのか?」
「まさか! 私は念の為にと、備えていたにすぎません」
「……お前はどう思う?」
僅かに目を細めて王妃を見詰めた国王は、そのまま第一王子へと水を向けた。