斜陽
ソヴァルシオンは冒険者の街である。そして冒険者は政治に関わる事を嫌う。
それでも、ソヴァルシオンにも王宮は存在している。ガーデンに在る王宮ほどではないにせよ、ソヴァルシオンの王宮も、白に塗られた見事なモノであった。
現在この王宮には、カーディニア王国の首都である、ガーデンより避難してきた現国王とその正妃。そして、二人の子である第一・第二王子が滞在していた。
「……それは許可できない」
その一室で机を囲んで座っていたカーディニア王は、重々しく首を横に振る。同じく机を囲むのは、王妃とその二人の息子達。
「ですが、あの娘は王を殺そうとしたのですよ!?」
「そうですよ。父上!」
王妃の言葉に、すぐさま第二王子が同意の声を上げる。
「しかし、あのエインが、な……俄かには信じられん話だが」
「現にあの娘に薬を盛られたではありませんか!」
「それは……しかし勘違いという事も……」
「では、何故あの娘は、今でもガーデンで生きているのですか? 何者かに命を狙われたのであれば、あの状況で無事なはずがないではありませんか!!」
「……もう一度あの時の状況を聞かせてくれるか?」
「勿論ですとも」
それから、王妃は国王にあの日の晩餐会での凶事の説明を始める。
それは国王と王妃、第一・第二王子と、第三王女の五人がガーデンで夕食を囲んだ時の事であった。
最初、和やかな雰囲気で進んでいた食事会ではあったが、突如国王と第一王子は食事中に意識を失う。後に聞かされた王妃の話では、毒を盛られたが、毒が薄かった為に、死には至らなかったらしい。
二人が倒れた後、王妃と第二王子も体調を崩したが、運よく毒が入っていた料理をあまり口にしていなかった為に、意識を失うまでには至らなかった。
その時に、第三王女であるエインが四人を毒殺しようと企てていた話を、エイン本人の口から聞いたという。
二人は異変に気付いた使用人の助けを借りて、命からがら国王と第一王子を連れてガーデンから脱出したものの、その際に幾人かの使用人が犠牲になったらしい。
王妃の話を簡単に纏めると、そういう事であった。
「…………」
その話を聞いた国王は、小さく唸る。
(私を殺すにしても、あのエインがそんな杜撰な計画を練るだろうか?)
国王がいまいち王妃の話を信じられない所は、そこであった。
エインであれば、そんな穴だらけな計画は練らないだろうという信頼を、国王はエインに抱いていた。少なくとも、毒の量を間違えるようなヘマは絶対にしない。
(それに、暗殺であればエインの下にはあの者が居る)
いくら配偶者やその子どもといえど、現国王とその他では、得られる情報の量や質には違いがある。国王が知っていても、王妃や子ども達が知らない事情というものは数多ある。その中に、エインの側近に暗殺者が居るというものがあった。そして、その暗殺者が行う暗殺には、一度も失敗がない事も。
かつてその暗殺者に、国王も裏で力を借りた事があったのでそれを知っていたのだが、そんな暗殺者が居る中で、毒の量を間違えるなど起こり得るはずもなく、またエイン自身も参加する少数での晩餐会で、国王を毒殺するなどという危険な行為を実行するとは、到底思えなかった。