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太陽

 月が月であって月ではない何か異様なモノに見えるようになったヒヅキは、テントを張り終えて焚き火を囲んで休憩していた五人の冒険者にそのことを伝えるが。

「突然どうした?別段月に異常はないぞ?」

 ヒヅキの話を聞いて夜空を見上げたリイドが訝しげに首を傾げると、他の四人もリイドと同じだと言うように、それに続いて頷いた。

 五人のその反応にヒヅキは驚いた表情を見せるが、それも一瞬のことで、五人に嘘や冗談を言っている雰囲気が無いこと確認すると、「そうですか………」とだけ返してから五人に騒がせたことを謝罪し、ヒヅキはそのまま五人から少し離れた場所に移動した。

「気づけたのは俺だけなのか、それとも狂ったのが俺だけなのか………」

 ヒヅキは先ほどと変わらず夜空に浮かぶ月を見上げるも、やはりそこに浮かんでいるのは月の形をした別の何かであった。

「あれは一体なんなのか………」

 夜空に浮かぶその月は歪み、見ているだけで今にもドロリと溶けてしまうのではないかと不安にさせる気味の悪さがあり、見ているだけで気が狂ってしまうのではないかという感覚に襲われるも、先ほどからそれ以外には何もないことが更に気味の悪さに拍車をかけ、ヒヅキは警戒を最大にする。それでも結局、その晩は正体を掴むことは叶わなかったのだった。



 翌朝、太陽が登りはじめたころには六人はテントを片付けて街道を北へと進んでいた。

「……………」

 そんななか、ヒヅキは念願のカムヒの森より北へと続く道を進んでいるというのに、浮かない顔をしていた。

「大丈夫?」

 そんなヒヅキを心配して、ルルラが声を掛けるも、ヒヅキはいつもの親しみのある微笑を張り付けて、「大丈夫です」と答えを返した。

 結局、昨夜は全く休息が取れなかったどころか、警戒し過ぎて無駄に消耗してしまっていた。それでも普段のヒヅキなら、まだ疲れを面に出して心配されるような事態にはなっていないはずであった。

「……………」

 ヒヅキはこれほどまでに消耗させられている原因を忌々しげに睨み付ける。

 それは昨夜の月ではなく、中天を目指しゆっくりと昇る太陽であった。

「まさか太陽まで変異しているとは………」

 ヒヅキは誰にも聞こえないような声でそう呟いた。

 その異変に気づいたのは、太陽の明かりが地平線に漏れだした時だった。相変わらず突然の出来事だった。

 昨夜と同じ不快感を感じた方角に目をやったヒヅキは、それが太陽であることに気づき、僅かに乾いた笑いを漏らしたほどだった。

 もうどうなっているのか解らなかったが、一つだけ判ったことがあった。それは常に感じるこの気の弱いものなら発狂しかねない不快感さえ我慢出来れば、他に実害らしいものは無いということだった。

「まぁ、この不快感が堪えるのだけど………はやく慣れないとな」

 諦めたようにそう呟くと、ヒヅキは誰にも聞かれないようにそっと苦痛の混じった息を吐いたのだった。

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