遺跡調査68
着地したヒヅキは、少し前へ移動して振り返る。そこには、空でも飛んでいるかのように、ゆっくりと降りてくるウィンディーネの姿があった。
「相変わらずよく分からない方ですね」
「そう?」
「ええ」
疲れたように頷くと、ヒヅキはウィンディーネに背を向けて、そのまま外までの道を進んでいく。
氷像を避けつつ通路を抜け、広間に出る。そこから天井の低い通路を進んでいくと、次第に気温も上がっていく。
そんな天井の低い通路を抜けると、まだ遺跡内ながらも、ヒヅキは伸びをして大きく息を吐いた。
「流石に立って移動できないのは辛いですね」
「そうね」
ヒヅキの呟きに、ウィンディーネが軽い同意の言葉を口にする。しかし、そこに疲労は一切見られない。
「さて、もうすぐ地上か」
背骨を伸ばすように腰に手を当てながら身を反らすと、ヒヅキは歩みを再開させる。
「それにしても、どれだけこの中に籠っていたのだろうか?」
遺跡の中から外の様子は窺えないので、時間の感覚が狂ってしまう。その為、どれだけの間籠っていたのか分からなくなってしまい、気がつけば数日籠っていた事もあった。
「そうね、大体十日ぐらいかしら」
「え!?」
呟きに返ってきた背後からの答えに、ヒヅキは驚きながら振り返る。
「そんなにですか?」
「ええ。移動にかなり時間を使ったもの。それと居住地の探索にもね」
「……それにしても、そこまでですか」
元々ヒヅキは休息というものをあまり必要としてはいなかったものの、それにしても十日はあまりにも長すぎる。
そう思えば、確かに疲れてきたような気もするし、急に眠気が襲ってきたような気もしてきた。それでもまだ休息をとる訳にもいかない為に、気合いを入れ直して意識を覚醒させる。遺跡の外までの残りの道のりも、まだそこそこ残っているのだから。
そこら中に岩や石が転がっている、デコボコとした悪路を進み、入り口近くの急な斜面を登っていく。
遺跡の外に出ると、近くに人の気配を感じたヒヅキは、遺跡の中に戻り、影から外の様子を窺う。
「こんな場所に人?」
何も無い森の奥、それも遺跡の入り口近くに居るというのは、普通の人間ではないだろう。
「……見張りの兵士でも到着したのかな?」
思案したヒヅキはそう思い至り、気配の感じる方へと目を向ける。そこには、ガーデンで見慣れた姿をした兵士が数人立っていた。少し離れたところにも、他の兵士達が居るのを感じ取れた。
「見張りか……見つからないようにしないとな」
ヒヅキは出来る限り存在感を消し去ると、遺跡を出て素早く移動を開始する。その後を、ウィンディーネが霞のような姿に自身を変えてついてきていた。