遺跡調査64
「あら、中に何か入っているわね」
「中に?」
ウィンディーネの呟きに、ヒヅキは消えた手の先に目を向ける。
「小箱かしら?」
そう言って引き抜かれたウィンディーネの手には、遺跡でほぼ必ず見つける、小さな箱が握られていた。
「一体何があったんですか? 私では何も起きませんでしたが」
ヒヅキの問いに、ウィンディーネは手にした小箱を差し出す。
「あげるわ。私には不要なものですもの」
「え? あ、ありがとうございます」
ヒヅキはウィンディーネから小箱を受け取る。
「それを封じる為に、あの枠の先に別の空間を創ったようね」
「別の空間?」
「ええ。ヒヅキのその背嚢と似たようなモノよ。ただ、この空間に干渉できる者は限られているようだけれども」
「限られている?」
「ええ。詳しくは分からないわ。この空間を認識可能な者とでも考えればいいわ」
「なるほど。それで、この小箱の中には何が?」
「そんなの、開けてみればいいじゃない」
「……そうですね」
少し小箱を眺めたヒヅキは、慎重な手つきで小箱を開ける。鍵などは掛かっていなかったようで、すんなりとふたが開いた。
「また水晶の欠片?」
その中には、今まで探索した遺跡全てにあった水晶の欠片が入っていた。
ヒヅキは背嚢を降ろして、その中から他の水晶の欠片を収納している小箱を取り出すと、ウィンディーネから渡された小箱の水晶の欠片を手に取り、その小箱の中へと移す。
それが終わると、ヒヅキは小箱のふたを閉めて、二つとも背嚢の中に仕舞い、背嚢を背負い直した。
「他には何もありませんか?」
周囲を見渡してのヒヅキの確認に、ウィンディーネは頷く。
「そうね。もうここには用は無いわ」
「では、戻りましょうか。居住地の方も見ておきたいですし」
二人はその部屋を後にすると、来た道を戻っていく。
「それにしても、本当にあの水晶の欠片は何なんでしょうね?」
「さぁ? 分からないわね」
「そうですか」
わざわざ別空間まで創って限られた者のみが取れる様にしてあったのだ、それだけでも何かしらの価値がある事は確実だろう。しかしそれが何かはヒヅキには分からなかった。ウィンディーネは何か知っていそうだが、語ろうとはしない。
二人は氷像が乱立する空間まで戻ってくると、居住区へと向かう。
氷像を避けながら慎重に進むも、居住区へと近づく度に氷像の数が増えていく。
あまりにも氷像の数が増えてきたために、ヒヅキはその氷像が気になり改めて観察してみるも、ヒヅキとは種族が違うのか、その氷像の性別すら判別が難しい。背丈も大体全員似たような高さなので、年齢さえも推測が難しかった。