遺跡調査63
ヒヅキは極寒の通路を進む。先へと進む度に周囲の温度が少しずつ下がっている様に感じるも、ウィンディーネのおかげで、寒さに耐性を得られたヒヅキの歩みは止まる事がない。
そのまま通路を進むと、薄っすらとした明かりが照らす広い空間に行き着く。
その空間には、壁から生えている数えるほどの光石が室内を照らしている他には、平らに加工された大きな石を階段状に積み上げて造られた祭壇が、その空間の中央に在った。
「祭壇だけ、ですか」
ヒヅキは空間内を見渡し、ぽつりと呟く。他には特に何も無く、祭壇に何かが安置されている様子もない。唯一祭壇上に石を組んで造られた、枠のような小さな囲いがあるぐらいだ。それがなければ、ただ大きな石が階段状に積み上げられているだけに過ぎない。
「そのようね」
ヒヅキの呟きに、背後からウィンディーネが同意の声を上げる。
「でも」
しかし、直ぐにヒヅキの横から手を伸ばし、祭壇を指差す。
「あの祭壇は怪しいわね」
「祭壇がですか?」
ウィンディーネの言葉に、ヒヅキは祭壇へと目を向けるも、石で造られた祭壇であること以外には、別段何も感じられなかった。
「ええ。近づいてみればいいわ」
ヒヅキはウィンディーネに言われるがままに祭壇に近づくも、変わらず特には何も感じない。
「あら? うーん、人間には分からないのかしら?」
ヒヅキの様子に、ウィンディーネは不思議そうな声を出すと、祭壇上に組まれた小さな囲いを指差す。
「ちょっとあれの中に手を突き入れてみてくれないかしら?」
「あの枠の内側にですか?」
ウィンディーネが指さした先には、ただ石で組まれた枠が在るだけで、そこには何もない。枠の反対側に何か造られているという事もなかった。
「ええ。お願い」
「……分かりました」
ヒヅキは訝るような表情を浮かべながらも、ウィンディーネの頼みに頷き、祭壇に上がると、人の手が入るぐらいの小さな枠の中に手を突き入れた。しかし。
「……何も起きませんが?」
手は枠内を通って反対側の何も無い空間に出ただけで、何も起こらない。
「そのようね。少し代わってくれるかしら?」
「分かりました」
枠から手を引き抜くと、ヒヅキは頷き、ウィンディーネに場所を譲る。
そうして枠組みの前に歩み寄ったウィンディーネは、先程のヒヅキと同じように、その枠の中に手を突き入れた。すると。
「……何が?」
ウィンディーネの手は、ヒヅキと同じ様に枠の反対側の空間に出る事はなく、枠の中に突き入れた手の先が消えていき、肘の辺りまでが枠の内側に呑まれてしまった。
先程自分で試して何も起きなかったのを確認していただけに、ヒヅキはそれに驚愕の声を上げた。