遺跡調査62
それからしばらく進んだところで、通路を見つける。
今回の通路は立ったまま移動できるぐらいの高さはあったが、よそ見をしていると、天井から伸びている鍾乳石へと、おもいきり頭をぶつけそうになるぐらいには天井が低かった。
そんな通路も床が凍っているので、気を付けなければ転倒しかねない。
ヒヅキは足元にも気を付けながら慎重に進むのだが、何故だか後ろからついてくるウィンディーネにそんな様子は見られない。それは前の氷像があった空間でも同様だったので、どうやってか知らないが、おそらくウィンディーネは、こんな足場の悪いところでも、滑るような事にはならないのだろう。
それに、ほんのり思うところがあったが、ヒヅキはそういうモノだと自分に言い聞かせて納得させる。それに、よくよく思い出せば、最初にウィンディーネは自分の事を実体を持った自然現象の様なモノだと言っていたので、その辺りが関係しているのかもしれない。
「それにしても寒いですね」
現在ヒヅキは多少厚着をしているものの、元々ここまでの寒冷地を想定して服装を選んだわけではない為に、四方が凍るような空間では、凍えるなという方が無理な話だろう。むしろ、そんな状況でも未だに凍傷になっていないだけ、運がいいと言えた。
「ウィンディーネは大丈夫なのですか?」
「私は大抵の温度の変化には、問題なく対応できるから大丈夫よ」
「そうですか。それならば良かったです」
ならば、今は自分の心配だけしていればいいのかと判断し、ヒヅキはどうしたものかと頭を働かせる。とりあえず身体だけは動かしているが、それだけでは流石に限界であった。
「温めてあげましょうか?」
「どうするので?」
「簡単よ」
そう言ってウィンディーネがふっと小さく笑うと、ヒヅキの足元から水が現れ、ヒヅキを包み込んでいく。
「なにを?」
すぐさまヒヅキの下半身を飲み込んだ水は、そのまま上半身も飲み込んでいく。
「さて、どうしようかしら?」
訝しむヒヅキへと、ウィンディーネは怪しげな笑みを浮かべる。
「……はぁ」
それに対して、ヒヅキは呆れて息を吐く。ウィンディーネがヒヅキに対して害する意思があった場合、こんな回りくどい事をする必要は無い。少なくとも、逃げ場のないこんな場所では、ヒヅキはウィンディーネから逃れる術を持ち合わせてはいないのだから。
そのまま水がヒヅキを完全に飲み込むも、直ぐに水は弾ける。
「つまらないわね。もう少し焦ってくれてもいいのよ?」
「焦る必要が無いでしょう」
もしも、あれでどうこうするつもりがあったのであれば、あの時点でヒヅキに打てる手は既になかった。
「まぁ、信用してもらえてると思う事にするわ」
「……お好きにどうぞ」
そこでヒヅキは先程まで感じていた凍えるような寒さが無くなっていることに気がつく。ただし、温かくなったわけではない。
(凍えなくなったと考えれば、温まったと言えるのか?)
ヒヅキは身体の様子を確かめる。水が身体を包み込んだというのに、何処も濡れてはいなかった。
「何をしたので?」
「熱が奪われにくくしただけよ。まぁ断熱したとでも思ってちょうだい」
「なるほど。ありがとうございます」
ヒヅキはウィンディーネに礼を言うと、歩みを再開させる。我慢できる寒さになった事で、多少は余裕が出てきていた。