遺跡調査61
「だから、誰か倒してくれないかと、密かに期待してたりもするのよ?」
「その神とは敵対しているので?」
「いいえ。ただの暇つぶしよ」
「暇つぶし?」
「退屈しているのよ。それに嫌気が差している」
「嫌気ですか?」
「ええ。だって、こちらがどれだけ目を掛けようと、気まぐれで簡単に壊されてしまうし、こちらはあちらに勝てないのに、あちらはこちらを殺せるんですもの。嫌にもなるわよ」
いつもの飄々としているウィンディーネのようではあるが、そこには僅かに暗い感じが漂っているようにヒヅキには思えた。
「だから英雄の誕生を待っているの」
「英雄、ですか?」
「ええ。神殺しの英雄よ」
「また物騒な名前ですね」
「そう? 私は好きよ。どんな恩寵でも施してあげたくなるぐらいにね」
「それはまた大層な加護で」
「ふふ。ヒヅキも挑戦してみる? 神殺しに。加護ぐらい惜しみなくあげるわよ?」
「……遠慮しておきます」
ため息を吐きそうになるのをグッと堪えつつ、ヒヅキはそれを辞退する。
ウィンディーネの加護というモノがどんなものかは分からないが、神殺しなど厄介事以外の何物でもないだろう事は、容易に想像が出来た。
「そう? 気が変わったら言ってね?」
申し出を辞退したヒヅキに、ウィンディーネはいつも通りのおどけるような物言いでそう返した。
「そんな事よりも、ここはどうにもならないので?」
「そんな事って、ヒヅキは相変わらずね。まぁいいわ。どうにかって、助けられないかって事? それなら無理よ、もう死んでいるもの。それに、ここの温度が低いのは元々よ」
「そうですか。では、先に進みましょうか」
ウィンディーネの答えをあっさり受け入れると、ヒヅキは先へと進む。
床が凍っているので滑らないように気を付けながらも、氷像を器用に避けていく。
「この先に何があるので?」
「祭壇よ」
「祭壇?」
「言ったでしょ? 遺跡は神を祀っていたから護られたって」
「そうですが、ここでは何の神を?」
「さぁ? そこまでは知らないわ」
「祭壇に何が在るのかも?」
「ええ。知らないわよ」
「そうですか」
「だって興味ないもの」
落胆したようなヒヅキの声音に、ウィンディーネはむくれるように返した。
それから少し進むと、ヒヅキは奥へと続く通路の様なモノを見つける。
「そういえば、住民は居ても住居はないんですね。奥にあるんですか?」
「ん? 住居への道なら過ぎたじゃない」
「え?」
振り返ったヒヅキに、ウィンディーネは不思議そうな顔で首を傾げる。
「? もしかして気づかなかったの?」
「え、ええ」
「あら、必要ないから通り過ぎたのかと思ったわ」
「どこに道が?」
「向こう側よ」
そう言ってウィンディーネが指さしたのは、今しがた通ってきた道であった。
「向こう側、ですか」
「ええ。この空間の入り口近くだもの」
「……帰りに寄ってみましょう」
わざわざ戻るのも面倒だと判断したヒヅキは、このまま奥へと進む事に決めた。