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 チーカイの町を出たヒヅキたちは、カムヒの森を迂回するように敷かれた街道に沿って東へと歩いていた。

 街道といっても他の道と違うところは、幅などの細かい部分を除けば、踏み固めた地面に小石や砂が撒いてある点だけであった。

 しかし、この街道が石が敷き詰められた立派な道になってきたら、それは大きな街が近いという目印にある。

 そういう意味では、距離こそ短いが、辺境の小さな町なのに、周辺の町へと続く主要な道が石畳になっているチーカイの町は、その規模の割には立派なものであった。

 ヒヅキたちはしゃべりながら比較的ゆっくりとした足取りで街道を歩む。とはいえ、それは冒険者たちの基準で、一般的な基準ではとても長距離移動の速さとは思えないほどに速かった。そして、それに平然と付いていくヒヅキは、やはり他の人たちとはどこか違った存在であるようであった。

 そんな様子でしばらく街道を歩いていると、空の色がすっかり濃くなっていく。

「そろそろどっかで野宿の準備する?」

 先頭を歩くリイドが、肩越しに後ろを歩く全員に問い掛ける。

「ん~、チーカイを出てそんなに経ってないし、まだ大丈夫じゃない?」

 そのサーラの返答に、異を唱える者は居なかった。

「それじゃ、とりあえずカムヒの森を過ぎるまでは行きますか!」

 リイドは気合いを入れると、張りきって歩き出した。



 それからしばらくの間、カムヒの森のふちをなぞるように敷かれた街道を歩き、ヒヅキたちがとうとう街道が森を離れて北へと延びる地点まで到着した頃には、すっかり夜も更けていた。

「……………」

 とりあえず休める場所をと、手慣れた手つきでテントを張っていくリイドたちを手伝いながら、ヒヅキはのが身を巡る血液の流れが速くなっていることに気づき、僅かに口角を上げた。

「そういえば、カムヒの森から先へは行ったことがなかったな―――」

 カムヒの森を背に、遠く北へと延びている街道を眺めながら、ヒヅキは感慨深げに呟いた。

 月明かりだけが頼りの夜では遠くまでは確認出来なかったが、それがまた未知なる場所に続いているようで、ヒヅキの知的好奇心を否応なしにくすぐってくる。

 そんな風にヒヅキが未知の世界に想いを馳せていると、ふいにその昂りに冷水でもかけるかのような不快感に襲われ、辺りに鋭い視線を向ける。

 しかし、辺りに視線を向けるも、怪しいモノや気配を発見することは出来なかった。

「まだこの気味の悪い感じはするんだけど………何もないな」

 ヒヅキはもう一度周囲に気を配るも、結局何も見つけることは出来ずに、ため息とともに夜空を見上げた。

「せめて今日が満月だったら発見出来たのかね………そんなことはないか」

 そう愚痴を溢すと、再度ため息が出そうになったところで、ヒヅキはこの気味の悪い不快感の元凶とおぼしきものを発見する。いや、それは発見したのではなく、認識したと表現するべきだろうか。

「どういうことだ、昨日までは……違う、さっきまでは確かにあれは月だったろうがよ!」

 夜空に静かに浮かび、地上を優しく照していた、さっきまでは確かに普通の月だったそれは、夜空を見上げているヒヅキの目を通すと、先ほどまでと違い、今では何か別の異様なモノに変異しているのであった。

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