遺跡調査57
女性の像の周囲を回り正面に移動すると、ヒヅキは像を見上げる。
(うーむ。何だろう、何処かで似た女性を目にしたことがあるのかな?)
顔の部分が高い為に、はっきりと人相は窺えないものの、それでも中々に精巧に彫られたその像の女性には、どことなく見覚えがあった。ただし、何となくでしかなく、同じ顔の人物を見たという記憶はない。
それにはっきりとは見えなくとも、眼前の大きな像と前の部屋にあった棚に並ぶ像では、顔の造りが違うことぐらいは判った。もしも同一の神? であれば、様々な顔を持っていることになるので、一つぐらい似た顔を見た覚えがあってもおかしくはないだろう。
「ほら、さっさと次に行くわよ。他にも遺跡はあるのでしょう?」
「ええ。まぁそうですね」
ウィンディーネの急かす言葉に、ヒヅキはそちらに顔を向けて頷く。
「……?」
「どうしたのかしら?」
ウィンディーネの顔を見つめながら、ヒヅキは数秒動きを止める。そんなヒヅキに、ウィンディーネは笑みを浮かべたまま首を傾げた。
「いえ、あの女性の像にどことなくウィンディーネが似ている気がしたもので」
「まぁ私も崇められるほどに高貴な存在ですもの、少しぐらい似ていても不思議じゃないと思うわよ?」
「それはそうですが……ふむ」
「それとも、とうとう私の魅力に堕ちたのかしら?」
「……まぁそうですね。ウィンディーネは美しいとは思いますよ」
「あら、素直ね」
「客観的な事実ですよ」
そう言うと、ヒヅキは来た道を戻る為に前の部屋へと戻っていく。
(まぁもっとも、それが貴女の本来の姿であれば、ですが)
たくさんの小さな像が棚に並ぶ部屋に戻ってくると、ヒヅキはその像へと目を向ける。
(本当に色々あるな。だが同じモノは1つとしてない)
それだけ確認すると、ヒヅキは部屋を出て教会へと戻る。
相変わらず教会には何も無い。だからこそ、そこに誰かが居ると、目を引くものであった。
「貴方は?」
部屋を完全に出たヒヅキは、教会の中央付近に立っているその人物へと問い掛ける。見た目は死んでいた獣人達と同じでローブに身を包み、フードを目深に被っている。
「名は……今は無い。すまないな、最近捨てたばかりなんだ」
「そうですか。ですが、訊きたいのは貴方の名前ではないのですが」
「ああ……、そうだったのですか! それでしたら、私は少し探しものをしていましてね」
「探し物?」
「人です」
「人?」
「はい。とても美しい女性で、それ以上に美しい剣を持っている女性です」
(ん?)
その人物の説明に、ヒヅキはどこかで似たような事を聞いた覚えがあるなと思うも、それがいつのどんな話だったのかまでは思い出せなかった。




