遺跡調査56
「ありがとうございます」
ウィンディーネが出したふたを水瓶に被せた後、ヒヅキは水瓶を少し傾けて水が零れないのを確認してから、それを背嚢の中に仕舞う。
「ああ、そういえば」
そこでヒヅキは、背嚢の中から液体の入った小瓶を数本取り出す。それは最初の遺跡の奥で、仮面の裏に隠されていたものであった。
「この中身が何か分かりますか?」
ヒヅキが差し出した小瓶へと目を向けたウィンディーネは、特に中身を確認することもなく、すぐに答える。
「薬ね。ただし、人間には使えないわ。人間に使えば効果が強すぎて毒になるわ。即死もしくは、運がよくても廃人になるんじゃないかしら?」
「では、何に対しての薬なんですか?」
「確か……龍だったかしら。ただ、今の龍に効くのかは不明ね」
「なるほど」
そう頷くと、ヒヅキは小瓶を背嚢の中に仕舞う。そのまま次は仮面を取り出した。
「これは何の仮面何でしょうか?」
「さぁ? 何かの儀式用の仮面なのでしょうが、私の記憶には無いわね」
「そうですか」
ヒヅキは頷き、仮面を背嚢に仕舞う。
「ありがとうございます」
それだけ確認したヒヅキは、背嚢を背負い直してウィンディーネに礼を告げた。
「ヒヅキの問いですもの、その程度は構わないわ」
ヒヅキはウィンディーネに頭を下げると、石の箱の中身を再度確認する。しかし、他には特に何も無かった。
「それにしても」
ふと思い立ったヒヅキは、もう一度背嚢を下ろし、その中から小箱を取り出して、その中身の水晶の欠片へと目を落とす。
「どの遺跡にもこれがありますが、この水晶の欠片は一体何なんですか?」
顔を上げたヒヅキは、ウィンディーネに問い掛ける。
「……さぁ。私にも分からないわね」
それにウィンディーネは、肩を竦めて首を傾げる。
「……そうですか」
ヒヅキは背嚢から小箱を全て取り出すと、中身を取り出して一つに纏めた。
「この箱は……ふむ」
中身を纏めた小箱を背嚢に仕舞うと、ヒヅキは空の小箱に目を向ける。それは簡素な小箱だが、しっかりとした造りで、品はいいもののように思えた。
「もう少し持っておくか」
背嚢の容量が少し心配ではあったが、まだ入るようなので、念の為に残りの小箱も、もう少しそのまま入れておく事にする。
「この絵は――」
「置いていっていいと思うわよ?」
「……そうですか?」
「ええ。水瓶の使い方さえ分かれば不要な絵ですもの」
ヒヅキに目を向けながら、親しげに浮かべた笑みに真意を隠すウィンディーネ。その顔をしばらく眺めたヒヅキは、真意を探るのを諦めて、もう一度その絵を調べてから、大人しく箱の中に戻した。
「さて、ここで他にする事は何かあったかな?」
そう思い、ヒヅキは立ち上がり周囲に目を向ける。そうすると目につくのは、やはり部屋にある大きな女性の像であった。