遺跡調査55
扉の先の闇を払った光球の明かりに照らし出されたのは、何段もの棚が造られた壁であった。
両側の壁にあるその棚の上には、幾つもの小さな像が置かれていたが、よく見ると、そのどれもが女性の像であった。ただ、姿や格好は様々で、共通点はあまり多くはない。
それらはどれも厚く埃を被っているので、長いこと手入れされていないようだ。
ヒヅキがそれを観察していると、焦れたウィンディーネに奥へと押される。
押されるがままに奥の部屋に入ると、そこには大きな女性の像が安置されていた。
「これは何の像なんですか? 神、もしくはそれに匹敵する存在だとは思いますが」
先程の部屋にあった像も全て女性の像であった事から、同一の存在なのかもしれないし、複数体いるのかもしれない。
「さぁ、私は知らないわ。それよりも、奥にあるモノを調べなくていいのかしら?」
ウィンディーネはヒヅキの疑問を流すと、像の裏側を指差す。
「奥?」
それに像を迂回して裏手に移動すると、そこには像の足元に石で出来た箱があった。
石のふたを外し中を確認してみると、中には光石と共に小さな水瓶と小箱に入った水晶の欠片、それに一枚の絵が入っている。
「これは像の女性?」
箱の中に入っていた絵に描かれていたのは、薄着で水面の上に立つ女性と、その女性を周囲で地面に座った人々が崇めている様子であった。
その絵に描かれている女性は、眼前に建っている像の女性のように思えた。よく見れば、像の女性も絵の女性も一緒に入っていた水瓶の様なモノを手にしている。
「ふむ」
ヒヅキは箱の中の水瓶に目を向けてそれを手に取ると、様々な角度から観察していく。
「おっと?」
その途中で水瓶を少し傾けたところ、中から水が零れてくる。
「中身がまだ入っているのか?」
水瓶の中に目を向けるヒヅキ。
「それは傾けると綺麗な水が出る水瓶よ」
そんなヒヅキに、横からウィンディーネがそう告げた。
「綺麗な水が?」
半信半疑ながらも、ヒヅキが地面に向けて水瓶を少し傾けると、中から水が溢れてくる。光球を近づけて確認すると、それは透き通った綺麗な水であった。
「飲めるので?」
「ええ。勿論」
「…………」
ウィンディーネの頷きに、僅かな間水を眺めたヒヅキは、口を近づけて少しだけ水を飲む。
「……美味しい水ですね」
味の方は悪くなかったが、しかし、それと飲んでも問題ないかは別問題であった。
「それは一定時間……一日に出る水の量が決まっているけれど、その範囲であれば、いつでも傾ければ綺麗な水が飲める魔法の水瓶よ」
「もの凄く便利なものですね」
ウィンディーネの説明に、手元の水瓶に目を向ける。中は光球を近づけても暗いままではあるが、ウィンディーネの説明通りの性能であれば、それはかなり需要のある品だと言えた。
「持っていけばいいわ。傾けさえしなければ水は出てこないから」
「そうですね。しかし、それはそれで難しい」
背嚢の中で水瓶を固定していたとしても、背嚢自体が傾いてしまったら水が零れてしまう事になる。
「じゃあ、ふたをしてあげましょう」
「ふた?」
「ええ。それをしている間は傾けても大丈夫になる、魔法のふたよ」
「それはありがたいですが」
「ええ。存分に感謝なさい」
そう言って不敵な笑みを浮かべると、ウィンディーネは水瓶の上部を覆うふたを、何処からともなく出現させた。