遺跡調査53
一度、下りてきた階段があった部屋まで戻ると、ヒヅキは少し休憩することにした。
軽く果実でも口にしておこうかと思い、背嚢を下ろして前に持ってくると、果実を取り出そうと背嚢の中に手を入れる。
「……ああ、そういえば果実はもう無いんだった」
中に目的の物がないことでそれを思い出したヒヅキは、代わりに木の実を食べようと、背嚢の中を探す。
「ん? これは何だったっけ?」
木の実を求めて手を動かしたところで、小さな袋を見つけてそれを取り出した。
「んー……ああ」
数秒それを凝視したところ、その袋が微かに動いたことで、ヒヅキはその袋の中身について思い出す。
「ウィンディーネはこれが何か分かりますか?」
袋の中から微かに動く小さな鉄の板を取り出したヒヅキは、それをウィンディーネに見せる。
「あら? また珍しいものを面白い形で持っているわね」
「これはどんな魔法なんですか? 見た事ない文字ですが」
「そうでしょうね。これは命の無い物に疑似的な命を与える魔法で、もう途絶えて久しい魔法よ。古代魔法とでも言えばいいかしら」
「古代魔法、ですか」
初めて聞いたその存在に、ヒヅキは手元の鉄の板に目を落とす。
「それはどうしたの?」
「他の遺跡を探索した際に襲ってきた相手に刻まれていました」
「そう。その魔法文字から察するに、結構強力な相手のようだけれど……まぁヒヅキには敵わないか」
ヒヅキはその鉄の板を袋に戻すと、背嚢に仕舞い、代わりに木の実を取り出して食べる。
幾つかの木の実を食べて水筒の水を飲むと、ヒヅキは移動を再開させる。
もう一つあった、戻ってきた道とは別の道に入ると、先に進む。
「こちらには気配はないですね」
地上ほど広範囲の索敵が難しい分、密に探るも反応は感じられない。
そのまま一本道を進むと、次第に通路が狭くなっていき、人一人通るのがやっとという広さになった。それからしばらく進み続けると、急に広い空間に出る。
「ここは……?」
そこは苔生した光石の柔らかな明かりで満たされた空間であったが、奥に教卓のようなモノが在るだけで、他には何もない。
「教会が在ると言ったじゃない」
「ああ、そういえばそうでしたね」
ウィンディーネの指摘にヒヅキは頷くも、どれだけ見渡しても、ここで何を信仰していたのか判るものは一つも無かった。
「ここでは何を祀っていたので?」
「さぁ、何だったかしらね。もう昔の事だから忘れてしまったわ」
「……そうですか」
分かりやすく恍けるウィンディーネに、ヒヅキは肩を竦めるだけでまともに相手をせずに奥へと進む事にした。