遺跡調査51
その気配の元には誰かが居た。それは今まで倒れていた獣人と同じように、全身を隠すような格好の人物であった。
ヒヅキが気配を感じられたように生きてはいたが、死にかけていた。
「……これは?」
仰向けに倒れ、辛うじて呼吸しているも、意識がはっきりしているかどうかさえ判らない状態のその人物を確認したヒヅキは、問い掛けるように後ろを付いてきているウィンディーネに顔を向ける。
「そうね、あの水を飲んだのでしょう」
「……ああ、なるほど」
こうなるのかと内心で苦笑しつつ、ヒヅキはどうしようかと思考を巡らす。毒消しなどの薬は一応持っているが、毒の正体が不明な為に、効くかどうかはまた別の話だった。なので。
「治せますか?」
ヒヅキはウィンディーネにそう問い掛ける。確実にこの女性ならばこれぐらいは治せるという確信を持って。
「可能よ」
そして、それは軽い調子で肯定される。
「では、治してもらえますか?」
「いいわよ。でも……いいの?」
「ええ、構いませんよ。色々と訊きたい事があるので」
「そう」
ヒヅキの返答にウィンディーネは適当な感じで言葉を返すと、気軽にその倒れている人物へと何かの魔法を掛けた。
たったそれだけで、その人物の今にも死にそうだった呼吸が、普通のモノへと変化した。
「……頼んでおいてなんですが、相変わらず何でもありですね」
それに少し呆れ気味にヒヅキが呟く。そこに僅かも警戒が混じらないように注意しながら。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………そろそろ起きては?」
いつまでも目を覚まそうとしないその人物へと、ヒヅキは冷たく言い放つ。
「…………」
しかし、その人物は目を覚まさない。それをヒヅキは暫く無感情に見下ろす。
「そうですが。しょうがないですね、折角拾った命でしたのに」
光球に戻していなかった光の剣を、そっとその人物の首元に当てる。
「…………」
それでも動こうとしないその人物に、ヒヅキは一言「さようなら」 とだけ告げて横に引いた。いや、引こうとした。
「起きた! 今、目を覚ましました!」
カッと目を見開き一瞬で身体を起こすと、その人物はそう言いながら立ち上がり、両手をヒヅキに突き出して、待ったと訴えてくる。
「……それで?」
「それで……?」
「ええ。起きたからなんです? 私はさようならと言いましたよね?」
呆けたような口をするその人物の喉元へと、ヒヅキは光の剣を突きつける。その目に感情の類いは一切窺えない。
「ッ!」
それでやっと現状を理解したらしいその人物は、冷や汗を全身にかきながら、真っ青な顔色で懸命に思考を巡らせる。
「え、あ、と……情報、そう! 情報を提供します!」
「……何の?」
ヒヅキの寒気のする声音での短い問いに、その人物は緊張に唇を舐めて言葉を続けた。