遺跡調査50
「さ、手を洗いましょうか」
ウィンディーネがそう言った頃には、水の塊は二つに分かれてヒヅキの手に纏わりついていた。
「…………何か楽しそうですね」
一度洗ったからか、遠慮のないウィンディーネは、にこにこと楽しそうな笑みを浮かべながら、ヒヅキに水魔法を行使していく。そんな姿に、ヒヅキは呆れたように言葉を掛ける。
「ええ、楽しいわよ」
それに弾む様な返事を寄越すと、ウィンディーネはヒヅキの手を洗っていた水を移動させて地面に吸わせた。
「さ、行きましょうか?」
「……そうですね」
ウィンディーネの言葉に、ヒヅキは疲れたように頷くと、先へと進む。
「ここから下に行く道はあるのですか?」
「あるわよ。確かこの下には、食糧庫と教会があったわね」
「教会ですか?」
「ええ。昔の人達も信仰ぐらいはあったのよ?」
「まぁ、そうでしょうね。それで、どこから下りればいいので?」
欲しい答えではなかったが、ウィンディーネは解っていてそう答えているのだろうと諦め、ヒヅキは別の事を問い掛けた。
「向こうの方から下りられるわよ」
そう言ってウィンディーネが指さした方角には、周囲より少し大きな家があった。
「ここの長の家ですか?」
「いいえ。公共の施設よ」
「そうですか」
ウィンディーネから軽く説明を受けながらその建物の中に入ると、ヒヅキは周囲を警戒しつつ、ウィンディーネに説明された場所に移動する。
「この下に気配は居ますね……動いていませんが」
建物の奥にあった階段の先を見詰めて、ヒヅキはそう呟く。気配は階段のすぐ下ではないが、どんどん近づいていた。
そのまま階段を下りると、そこは区切られた部屋であった。広くはあるが天井が低いからか、閉塞感を感じる。それに、周囲にある光石の数も一気に減ってしまった。
ヒヅキは、若干薄暗い部屋の中に目を向けるも、特に何も無い。
「さて、まずは気配の方の正体を確かめに行こうかな」
ヒヅキは気配を感じる方角に顔を向け、そちらに足を向ける。
足音を極力消し、周囲を警戒しながら慎重に進む。しかし、そんなヒヅキの後ろから付いてくるウィンディーネは、特にそういう事に注意を払っている様子は無く、普通に歩いている。それでも立てる音は小さいが、ヒヅキが自分の行動を馬鹿らしく思うには十分であった。
「はぁ」
小さく息を吐くと、ヒヅキも普通に歩くことにする。
それから程なくして、二人は気配の主の近くまで辿り着く。
ウィンディーネにより大分やる気が削がれたヒヅキは、明かりを消すのも面倒だと思い、光球を消さずに光の剣に変えると、一応の警戒だけはしつつ、さっさとその気配の許へと歩み寄った。