遺跡調査49
辿り着いた川は、川幅がそこそこあり、強い緑色をしていた。その為、まずはその鮮やかさに目がいってしまう。
川が流れている岩盤は艶やかに光石の光を反射させていて、水面近くは白くなっている。おそらく水底も同様に白いのだろう。
幻想的なその光景は美しくはあったが、それを見て、この水を飲んでみたいとは思えない。そもそも毒らしいので、ヒヅキに飲む気はなかったが。
「この川がここの飲み水だったのですか?」
「ええ、そうよ。昔はここも問題なく飲めたのよ」
ウィンディーネの言葉に、ヒヅキは改めて水面を覗いてみるも、やはり飲みたいとは思えない色だ、という感想しか湧かなかった。
ヒヅキは何処かに橋はないかと、川に沿って目を向ける。気軽に跳び越えられる川幅ではない。とはいえ、注意は必要だろうが、泳げないという事はないだろう。流石に泳ぐ気にはなれなかったが。
すると、少し離れたところに石で出来た橋を見つける。それはおそらく人工的なものというよりも、水流が岩を削ってできた自然のものだろう。
その橋を通って川を渡る。川の先にも街はまだ続いていた。
「気配はあまり動いていませんね」
階段を下りて直ぐに感じた気配を常に捉えていたヒヅキであったが、その気配は最初の位置からほとんど動いていなかった。
「……ふむ」
それについての可能性をいくつか頭に思い浮かべ、軽く頭を振って街へと目を向ける。
「ん?」
そこで微かに漂う鉄の臭いに、ヒヅキは眉根を寄せる。
「そこを曲がった先ね」
眉根を寄せたヒヅキの横から手を突き出すと、ウィンディーネは先に在る曲がり角を指差す。
「ここでも死んでるんですか」
臭いの原因に心当たりがあるヒヅキは、呆れたように呟くも、慎重に角を曲がって様子を確かめる。
「はぁ。やはりか」
そこに転がっていたのは、例の獣人の仲間と思しき者達であった。転がっている三人の獣人の殺され方は、外に居た者達と似たようなもので、鋭い一撃で斬り殺されていた。
ヒヅキはその死体に近づくと、手早く観察して持ち物を漁る。
「よくやるわね」
そんなヒヅキに、後ろから呆れたような感心するようなウィンディーネの声が掛けられるが、ヒヅキは特に気にせず持ち物の確認を続ける。
「ふむ。今回も指令書のような物は無し、と」
周囲に置いた死体の持ち物を眺めたヒヅキはそう口にすると、三人の持ち物をそれぞれに戻していく。
「しかし、この獣人達は何をしに来たのか」
それは襲撃に遭っている方もだが、ヒヅキは出来るだけそれらには関わりたくはないなと、内心でため息交じりに呟く。しかしながら、おそらくそれは無理な話だろう。というよりも、最初の遺跡で襲撃を受けた時点で関わっていたのかもしれない。
「さてと。では――」
ヒヅキが立ち上がり振り返ると、そこには小さな水の塊を現出させて微笑むウィンディーネの姿があった。