遺跡調査48
それからも、ヒヅキは光石が照らす広い街を警戒しながら進んでいく。
「しかし、何故ここは時が止まったかのようにこのままなんでしょうか?」
「? どういう意味かしら?」
「いえ、ここは入り口が少々見つけにくいとはいえ、長い時を経れば、何かしらの生き物でも住み着きそうなものだと思いまして」
「ああ、なるほど」
ヒヅキの説明に、ウィンディーネは頷いた。
「それは今までにも何度かあったわね。ここに住民が暮らしていた頃から入ってくる存在は居たもの」
「では?」
「住民が暮らしていた頃には追い返され、その後は穢れの影響で住めず、後は……知らないわね。そもそも、いつここの穢れが消えたのかさえ私は知らないもの」
「そうなんですか?」
色々と気にしていた感じであったために、ヒヅキは勝手に知っているものだと思い込んでいた。
そのヒヅキの意外そうな声音に、ウィンディーネは小さく笑う。
「ええ。ここにも長いこと来ていなかったのよ」
「では、なぜ水が毒だと?」
「ふふ。私は水の状態に関しては、直接確認しなくても分かるのよ?」
「そうなんですね」
そういえばウィンディーネは水の魔法を使っていたなと、ヒヅキは何となく頭に思い浮かべる。もしかしたら水の状態を理解出来る魔法でも在るのかもしれない。
「それにしても、本当に綺麗に残ってますね。まだ誰か暮らしていそうだ」
ヒヅキは周囲を見渡す。
「そうね。……そういえば、ヒヅキは光石は要らないの?」
「?」
「ほら、確か光石はそこそこ貴重品だったはずよね?」
「ええ、そうですね。小さいモノでも割といい値段で取引されていますよ」
「だから必要ないのかな? と思ったのよ。ここには大量の光石が在るわよ?」
「そうですね。ですが、私にはこの光球が有りますから」
遺跡に入った時から現出させている光球へと目を向ける。
「まぁ、それもそうね。でも、それも万能ではないわよ?」
「そうですね。爆発もしますし、魔力も消費しますから」
「ええ。だから一つぐらい持っていた方が便利よ?」
「……そうですね。気が向いたら採掘に来ますよ」
ヒヅキはウィンディーネにそう返す。
光石は便利ではあるが、常に光っているという特性があるために、光を隠すのが面倒だという考えもあったが、ヒヅキが固辞する一番の理由は、ウィンディーネの話題の振り方がどこか不自然だった為だ。
しかし、それ以上ウィンディーネがその話題に触れる事はなかった。
そのまましばらく街の中を無言で歩いていると、次第に水音が大きくなり、二人は街の中を流れる川に辿り着く。