遺跡調査47
階段のあった部屋から細い通路を経て到着したのは、無数の光石が照らし出す、途轍もなく広い空間であった。
「ここが居住区ですか」
「ええ。そうよ」
突然現れたその開けた場所には、岩を削って造ったような家が整然と立ち並んでいる。その家は一階建てと二階建てが多く、あまり高くはない。
「……誰も居ませんね」
まだまだ人の住めそうなその空間は、時が止まっているかのように静かであった。
「ええ。もう長いこと誰も暮らしていないもの」
ヒヅキの呟きに答えたウィンディーネの言葉には、様々な感情が入り混じっているように感じられたものの、それがどんな感情かまでは窺い知れない。ただ、そう言ったウィンディーネの横顔は、ヒヅキには少し寂しそうに見えた。
「ああ、そうそう」
しかしそれも一瞬の事で、直ぐにウィンディーネはヒヅキの方にいつもの何かを企んでいる様な笑みを向ける。
「ヒヅキが気にしていた水音の正体なら、この先に在るわよ」
そう言ってウィンディーネが指さした先へと、ヒヅキはつられるように目を向けた。
「この先に川でも流れているのですか?」
居住区だったというのであれば、当然飲み水となるものがあるはずであった。その当時の水源がまだ枯れていなければ、だが。
「ええ。地下に流れる綺麗な水よ……もっとも、今はそのままでは飲料には適していないのだけれど」
「そうなんですか?」
「ええ。あれは生き物には毒ね。舐める程度であれば問題ないでしょうけれど」
ウィンディーネの話に、ヒヅキは素直に頷く。基本的にヒヅキはウィンディーネの事を信用していないものの、こういう時のウィンディーネの言葉は信用できた。
そのままヒヅキとウィンディーネは街中に入っていく。
「丈夫なものですね」
周囲の家へと目を向けたヒヅキは、短くそう感想を述べる。
「ええ。ここらの岩盤は特に硬いもの」
ウィンディーネの説明を聞きながら、ヒヅキは家の中を覗き見る。元々扉は付いていたのだろうが、そちらは木か何かで出来ていて、完全に朽ちて壊れていた。
家の中は石で机や棚、ベッドのような物が造られていたり、光石が飾られていたが、他は何かが在った痕跡ぐらいしかみられない。
「見事に石で出来た物しか遺っていませんね」
「もうかなり長い年月が経過しているもの。石以外のものがあれば、それは警戒すべき品よ」
「そうですね」
ウィンディーネの言葉に頷くと、ヒヅキは周囲に目を向けながら気配を探る。周辺には生き物の気配はないものの、ヒヅキは生き物以外に襲われた経験があるだけに、それで安心はできなかった。