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遺跡調査44

 立ち上がったヒヅキは、もう一度周囲に目を向ける。

「ふむ。ここには誰も居ませんね。私では遺跡内までは把握しきれませんが」

「ふふ。そうね」

 ヒヅキに続いて立ち上がったウィンディーネが隣で楽しそうに返事をするが、ヒヅキはそれを無視して遺跡の入り口へと歩みを進める。

 ごつごつとした岩の硬い感触を足裏に感じながらも、洞窟の様な遺跡の入り口に入っていく。

「ここは何の遺跡なんでしょう?」

 ヒヅキは入り口を通ると、光球を現出させて周囲に満ちていた闇を払う。

 そこは数人が中に入れる程度の小部屋で、四方の岩肌は入り口周辺の様子に比べて随分と手が加えられていて滑らかであった。

 しかし、今までの遺跡のように壁画が描かれているとか、石像が置かれているなどはない。気配を探るも、魔物や穢れの嫌な感じもしないうえに、生体の反応は引っかからない。

 ヒヅキは慎重な足取りながらも、遅くならない速度で奥へと進む。

 小部屋の先は、曲がりくねった狭い通路が延々と続いていた。一本道なので迷うような事はないが、角に近づくときはその都度戦闘体勢を取りながら慎重に先を確認した。

 そんな歩みも通路が終わった事で止まる。

「また派手なモノですね」

 通路の終端は次の狭い部屋へと続いていたのだが、ヒヅキ達が入ってきた通路の向かい側の部屋の壁に、外の死体と同じ格好の死体が、剣のようなモノで胸を突き刺されて壁に留められ、何かの作品のように飾られていた。

「岩の壁相手に器用なものだ」

 岩ごと心臓に深く突き刺さっているその剣らしきものに、ヒヅキは呆れたように呟く。剣で岩を突き刺せるというのは凄いものだと感心しつつも。

「それにしても、臭うわね。早く先に進みましょう?」

 狭い部屋に満ちている、飾られている死体が垂れ流した血や汚物の臭いに、ウィンディーネが不快げにそう言葉にする。

「……そうですね。しかし、その前にこの死体を少し調べたいのですが?」

「物好きね。早く終わらせてくれる? 私は通路に戻ってるから」

「分かりました」

 ウィンディーネが今来た通路に下がるなか、ヒヅキは足下に気を付けながら死体に近づく。

 強くなった吐きそうな臭気を我慢しつつ、ヒヅキはその死体を観察してから、少し踵を浮かせて手を伸ばす。

 まずは隠れている顔を確認すると、それは獣人の女性であった。外の死体と同じでおそらく若いのだろう。

 調べてみても、持ち物に気になるものは無かったが、ヒヅキはその突き刺さっている剣に目を向ける。

「はっ…………くッ!」

 ヒヅキは死体を押さえると、その剣を掴み引き抜こうと力を入れる。しかし、その剣は綺麗に奥まで突き刺さっているのか、ヒヅキがどれだけ力を込めて引いても、岩に挟まったままで引き抜けそうにない。

「…………」

 引き抜けそうにないと判断したヒヅキは、剣を諦め死体から手を離し、ウィンディーネが居る通路に引き返す。

「汚れてるわね」

 戻ってきたヒヅキの姿に、ウィンディーネは呆れたように呟き、水の塊を現出させた。

「これで汚れを落としなさい」

 そう言うと、その水の塊をヒヅキの頭上から落とす。しかし、その水の球は頭上で弾ける事無くヒヅキを飲み込むと、円を描くような水流を起こしながら、ヒヅキの頭から足までゆっくりと下りていき、足下に広がり岩に吸い込まれていった。

「これで汚れは落ちたでしょう」

 満足げなウィンディーネだが、当然ながら、水に飲み込まれた目の前のヒヅキはずぶ濡れである。

「ああ、心配しなくても大丈夫よ。ちゃんと乾かすから。勿論荷物の方もね」

「…………はぁ」

 ウィンディーネに水気を飛ばしてもらいながら、ヒヅキは精彩の欠いた瞳でウィンディーネを捉えて、色々と諦めたような重い息を吐き出した。

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