遺跡調査40
ウィンディーネのその言葉に、ヒヅキはなるほどと思いつつも、問い掛ける。
「中に収められていた者について何かご存じで?」
「いいえ、全く。だって、これは推測でしかないのだもの」
「その推測の相手は? 何か心当たりがあるのでは?」
「……さぁ。分からないわね」
一瞬言葉を詰まらせたような間を空けたウィンディーネだったが、直ぐに気のせいだったかのように、いつも通りの飄々として妖艶な、それでいて何か含む様な物言いに戻った。
「そうですか」
ヒヅキはその空いた間が気にはなったが、ウィンディーネが答えようとしないのは学習していたので、特に何も言わずにそう流して、何かないかと棺へと目を向ける。
「…………」
そんなヒヅキを、ウィンディーネは観察するように見つめ続ける。
「何もありませんね」
棺の中に手を入れて隈なく調べたヒヅキは、残念そうに呟くと、棺のふたを閉めた。
「ん? どうかしましたか?」
顔を上げたヒヅキは、そんなウィンディーネに気がつき、怪訝そうな顔をみせる。
「いいえ、何でもないわ」
そう返すと、ウィンディーネは含み笑いを浮かべる。
「…………」
それに少し呆れた様な目を向けた後、ヒヅキは遺跡の外へと足を向けた。
ヒヅキの後を追いながら、ウィンディーネは何か思案するような視線をヒヅキに向ける。
結構な時間遺跡の中に籠っていたようで、外に出ると太陽が大分傾いていた。
「さて、次は少し東側の方に一つあったはずですが、その前に何処かで休憩したいですね」
穢れの影響と、生命力をウィンディーネに大量に吸われたことで、ヒヅキは結構な疲労を感じていた。
「出来れば一晩ぐらいは休憩したいところですが」
ヒヅキはそれでいいだろうかという目を、付いてくるであろうウィンディーネへと向ける。
「ええ。ヒヅキの好きにすればいいと思うわよ」
ウィンディーネが頷くと、ヒヅキは前を向いて、下山せずに森の中を進む。
そのまましばらく進むと、適度に開けた場所に出る。
「ここら辺でいいでしょう」
ヒヅキは背嚢から取り出した、少し大きめの防水布を地面に広げると、そこに腰掛けた。
「これは私も腰掛けていいのかしら?」
「どうぞ」
「ふふ。ありがとう」
機嫌よく軽く笑って礼を言うと、ウィンディーネもその上に腰を落ち着けた。
そんなウィンディーネを横目に、ヒヅキは脇に置いた背嚢から木の実と果実を取り出すと、ウィンディーネに差し出す。
「食べますか?」
「あら、大丈夫よ。私の食事は生命力だから。まぁそれからも吸いとれないこともないけれど、それは止めておくわ」
「そうですか」
ウィンディーネの返答に、ヒヅキは差し出した果実を引っ込めると、自分の口元に持っていくき、それを口にした。