遺跡調査36
三体の魔物の内、最初に攻撃している、しなるような攻撃と素早く鋭い攻撃を繰り出している魔物は、姿形が似ている。
背丈といい形といい人間に近いのだが、手だけが異様に長いのだ。人間の倍はあるのではないだろうかという長さだ。
その長い腕を鞭のようにしならせ、もしくは槍のように伸ばして攻撃してくるのだ。その強度を考えれば鉄以上なので、普通の腕ではないのは確かだろう。ヒヅキにはその元となった種族が分からなかったが、野生の動物以外も魔物になるという事に気味の悪さを覚える。
そしてもう一体の魔物は、巨大な体躯を体毛で覆いつくしている魔物であった。ヒヅキは詳しい区分までは知らなかったが、それが熊の魔物である事だけは何となく理解出来た。
とはいえ、三体ともに闇がそのまま形を取ったような真っ黒な身体に、前の部屋で遭遇した魔物のように鮮やかな赤い石を所々から生やしている。しかしその赤い石の大きさが異なり、こちらの三体は、その大部分が部位を覆うような大きなモノで、まるでそこだけ防具を付けているようにみえるほどだった。
腕の長い二体の魔物は、赤い石に胴体部分が飲み込まれている様に覆われ、熊の魔物は両腕がすっぽりと覆われている。
(……なぜ魔物になると体色が黒くなるのか、そしてあの赤い石は何なのか疑問ではあるが、それに答えてくれる者は……居ないな)
一瞬ウィンディーネの顔が頭に浮かんだものの、ヒヅキはそれを内心で一笑に付す。彼女に期待など全くしていない。それよりも、共に行動する事への不安しかなかった。どうあっても己では対処できない相手というのは恐怖でしかない。それも、何を考えているか分からない相手ともなれば尚の事だろう。
ヒヅキは魔物の攻撃を避けつつも、出来るだけ入り口近くで対処しようと行動する。
(ふむ。穢れというのはここまで厄介なのか)
僅かに点滅した光の剣を視界に収めたヒヅキは、それで知覚を最大限に鋭敏にして原因を確かめる。
(少しずつだが力が奪われているか……違うな、これは奪われるというよりも消耗していると表現した方が正確か。それに、おそらくこれが穢れていくという事なんだろうな)
急いで終わらせた方がいいという結論を出したヒヅキは、観察は十分と、迫りくる二体の魔物の腕へと迎撃を行う。
「ハッ!!」
ヒヅキが振るった高速の剣は、迫っていた腕を容易く切り落とす。
「「――――――――!!!!!!」」
それに片腕を失った二体の魔物が声にならない悲鳴を上げる。
その隙を逃さず地を蹴ったヒヅキは、二体の魔物の胴体部分へと光の剣を振るう。
「チッ!」
しかし、魔物の腕を容易く切り落としたその斬撃は、胴体を覆う赤い石の上を滑るだけでろくに傷もつけられない。
(前の魔物の赤い石には、ここまでの硬度はなかったのだが)
ヒヅキはすぐさま標的を胴体部分からもう片方の腕に変えるも、魔物が戦闘体勢に戻った為に、それで斬れたのは片方の魔物の腕だけであった。
(これで、一体はほぼ無力化した。油断はできないが、残り二体)
少し退いたヒヅキへと、熊の魔物が4足の脚で地を蹴り突撃してくる。その予想以上に速い魔物の速度にも、ヒヅキは冷静に思考を行う。
(完全に避けるにはギリギリ間に合わない。ならば受け流すしかないか)
ヒヅキは熊の魔物の突撃に合わせて軽く後ろに跳ぶと、光の剣を突撃してくる熊の額へと突き立てる。
激突した衝撃で光の剣が熊の魔物の頭を貫通するも、それでも魔物の突撃は止まらない。
「しつっこい!」
ヒヅキは熊の魔物に押されながらも、魔物の肩辺りに足を掛け、身体を捻ったりして揺らすと、魔物の頭に突き刺さっている光の剣で脳天を切り裂く。
「ぐっ」
それで即消滅した熊の魔物ではあったが、ヒヅキは押されていた勢いを殺しきれずに、吹き飛ばされるままに床に背中を強かに打ち付けながらも、光の剣を何とか消して、石の上を転がっていく。
「ああ、身体が重い」
穢れの進行に伴う消耗の激しさに、ヒヅキは愚痴りながらもよろよろと立ち上がると、光の剣を現出させながら、まだ消滅していない二体の魔物へと向けて駆けだす。
「これで終わらせる!」
残った腕を突き出してくる一体の魔物と、それを斬り払ったヒヅキへと突撃してくる両腕の無い魔物。
ヒヅキはそれをすれ違うように躱しつつ、その瞬間に一筋の光を魔物の首に走らせ、魔物を消滅させる。
それからすぐさま身体の向きを変えたヒヅキが、残った一体との距離を瞬く間に詰めると、闇を照らす光が魔物の首を横断した。