遺跡調査32
ヒヅキは再度部屋に入る前に、背嚢から果実を一つ取り出し、それを皮ごと食す。その後に水筒から水を少しだけ飲んだ。
そうして少しの間休憩して落ち着くと、部屋に入る。
「流石に酷い散らかりようね」
部屋に散乱している大量の石に、ウィンディーネが呆れたようにそう口にした。
それに応えることはせずに、ヒヅキは先に進む道か下へと続く道を探して部屋の中を歩き回る。
「さて、この山をどうするか」
少し前まで巨人の身体だったその山を見上げ、ヒヅキはどうしようかと思案する。普通に登ったのでは、崩れてしまいそうな危うい積み上がり方をしていた。
かといって、迂回出来るほど部屋の広さには余裕がない。吹き飛ばすのも同じ理由から難しい。光の剣での切断は……山が脆すぎて危険だろう。故に跳び越えるしかないだろうかと、ヒヅキが頭を悩ませていると。
「あら、穴ぐらいはあけてもいいわよ?」
「脆そうですが、可能なので?」
「穴をあければ勝手に固まってくれるでしょう」
「……そんなものですかね?」
「ええ」
「……では、お願いします」
そう言うと、ヒヅキは邪魔にならないように、ウィンディーネの後ろに下がった。
ウィンディーネはそれを見届けると、軽く手を持ち上げて、眼前にウィンディーネ自身が余裕ですっぽりと収まる大きさの水球を現出させた。
「では、いくわよ」
そう軽く告げると、ウィンディーネはその水球を山の側面目掛けて射出する。
暗い中だったとはいえ、ヒヅキの目をしても消えたかと思うほどに一瞬で水球が移動すると、山に激突して大きな横穴を穿つ。
貫通した穴から反対側の様子が見えると、山が崩れ始め、穴の中に次々と石が落ちていく。しばらくそうして穴を埋めるように石が落ちていたが、途中でぴたりと落石が止まる。結局、穴の三分の一ほどが埋まったものの、見事に山に横道が開通した。
「ね、なんとかなったでしょう?」
それにウィンディーネはヒヅキの方を振り向くと、満足げな笑みを見せる。
「そうですね。ありがとうございます。では、先に進みましょうか」
そんなウィンディーネに、ヒヅキはあまり反応を返さないようにしつつ、そう言って先に穴の方へと歩みを進める。
「それにしても、強力な魔法でしたね」
穴を通過して反対側に出ると、ヒヅキはウィンディーネにそう告げた。
厚みのある石の山を貫通していることに驚きつつ、それでいて反対側にはほとんど影響がないことに、ヒヅキはウィンディーネが完全にその力を自分の物としていることに感嘆する。正確に山の厚みなどを読み取る技術も侮れない。
「ふふ。あれぐらい簡単なものよ。ヒヅキもその光の魔法で、これぐらいは出来るようになると思うわよ」
「だといいのですが」
「大丈夫よ。ヒヅキなら」
ウィンディーネの確信しているようなその言葉に、ヒヅキは後ろに目を向ける。
そこには、真意を悟らせないにこやかな笑みを浮かべたウィンディーネの姿があるだけだった。