遺跡調査27
光球により闇の覆いが払われ、隠されていた通路が姿を現していく。
そこは岩盤がむき出しの通路であった。
綺麗に掘られたその通路の壁には、何やらよく分からない絵が描かれている。
「これは何の絵だろう?」
ヒヅキは足を止めると、壁中に書かれている絵に目を向ける。
「この遺跡が出来た当時の人間達の風俗が描かれているようね」
頬と頬をくっつける様にヒヅキの後ろから顔を突き出したウィンディーネが、その絵を見た感想を述べた。
「人間?」
その壁に描かれている人といえなくもない奇妙な存在に、ヒヅキは訝しげな声を上げる。
「ええ、これは間違いなく人間よ。動物の仮面を被っているようだけれど」
ヒヅキの疑問に、真横でそう断言するウィンディーネ。
「これは何をしているので?」
「儀式の様ね」
「儀式?」
「ええ。神に生贄を捧げているところよ」
「生贄? 何の為に?」
ヒヅキは記憶を探り、昔にそんな儀式が存在したという話を読んだな、と思い出す。
「これは雨乞いかしらね。最近はこの辺りで生贄なんて風習はみないけれど、世界にはまだ生贄を捧げているところは在るのよ。そう多くはないけれど」
「そうなんですか」
「ええ。意味ないのにね」
ウィンディーネは、呆れた様にそう付け加える。
「神、というのは存在するので?」
「あら、貴方の真横に居るじゃない」
「そういえば、最初にそんな事を言っていましたね」
「そうよ。おそらくこの壁画に描かれている生贄を捧げている神様は私だもの」
「そうなのですか?」
「ええ。私は主に水を司っているから、雨乞いを捧げる神は私の場合が多いわね。姿形や呼び名は違ったりするけれども」
「なるほど。ウィンディーネは想像以上に大物なのですね」
「そうよ。だからもっと敬ってもいいのよ?」
「……考えておきます。それよりも、他の壁画は――」
それからもヒヅキは壁に描かれている絵を確認しながら先へと進む。
色々な儀式や、死生観のようなものなど様々なモノが描かれているが、その中にスキアを思わせる存在が描かれている部分があった。それに人々は逃げまどい、食べられたりしている。しかしその壁画の中に、輝く剣らしき物を手にした者がスキアを退治しているところもあった。他よりも派手な衣装なので、英雄という事なのだろう。
「これは?」
「勇者の話じゃないかしら?」
ヒヅキがそれを指差すと、ウィンディーネがそう答える。
「勇者、ね……」
「あら、気になるの?」
「ええまぁ。スキアっぽいのも描かれていますし」
「っぽいというか、これはスキアね」
「やはりスキアは昔から居たのですね」
「ええ。それはもう遥か昔から居たわよ」
「……スキアは滅びた世界の住人、というのは本当ですか?」
「あら、よくその事を知っていたわね。その通りよ。この絵も前のどこかの時代に描かれたものだし」
「滅びたのに残っているので?」
「? だから遺跡なんじゃない。ヒヅキはおかしなことを言うのね」
可笑しそうな笑みを浮かべるウィンディーネ。
「遺跡とは何なんでしょうか?」
「過去にここで栄えた者達の営為が残されている場所でしょ?」
「いや、そうではなく……うーーん」
ヒヅキはどう言い表せばいいのかと考えるも、適切な言葉が頭に浮かんでこない。
「……いえ、そうですね」
しばらく考え、適切な表現が何も思い浮かばなかったヒヅキは、言葉にするのを諦めて先へと進む事にした。