遺跡調査26
ヒヅキとウィンディーネは目の前の背の高い山に入っていく。
その山は人の手が入っているようで、適度に間伐された跡が目についた。木々の合間からは、まだ沈んでいなかった太陽の眩しい明かりが入ってきている。
そんな目に染みる明るさの山中を、二人は無言ですいすいと登っていく。道中は険阻という事はなく、整備されているのか比較的なだらかな道であった。
それからどれぐらいの時間が経過したか。周囲がすっかり暗くなった頃。山の頂よりは二合ほど下の山腹にその入り口を見つけた。
遺跡の入り口と思しきその横穴は、二人ぐらいならば一緒に通れそうな幅に、人間であれば頭をギリギリぶつけないだろうぐらいの高さであった。
その入り口を通って、真っ暗な中に入っていく。
「何か居るわね」
洞穴のようなその遺跡の中に入った瞬間、ヒヅキの後ろからそんな呟きが聞こえてくる。
「何か、ですか?」
「ええ。よくない何か。生きているけれど生きていない存在ね」
その謎かけのようなウィンディーネの言葉に、ヒヅキは少し考えるような間を空ける。
「……それは魔物ですか?」
「ああ、そういえば、貴方達はあれをそう呼んでいたわね」
「……ウィンディーネは何と呼んでいるので?」
「そうね、そもそもそんなに出会う事がないから呼び名何て無いのだけれども……あえて定義するのであれば穢れ、かしら」
ウィンディーネの言葉になるほどと頷くと、ヒヅキは暗闇の先に目を向けた。
「魔物、ね」
初めて遭遇することになる魔物に、ヒヅキは微かに緊張しつつ光球を現出させる。
「ふふ。やはりヒヅキは面白いわね」
そこに背後から声が届き、ヒヅキは肩越しにウィンディーネに目を向けた。
「面白い? この光球がですか?」
「ええ」
「ふむ。この光球は何なんでしょうか?」
「魔法よ。それ以外に何かあったかしら?」
「いえ、そうではなく……この光球の何が面白いんですか?」
「ん? んー……ああ、なるほど。ヒヅキはそれがどんな魔法なのかを知らないのね?」
「え、ええ。おそらくは。形が変わる事と、投げれば爆発する事ぐらいは知っていますが」
「まぁそれに形はないものね。それに、その光は集約された力の塊だもの。爆発ぐらいはするわよ」
「そう、なんですね」
「ええ。でも、それが使える存在は稀有よ、大切になさい。その先は神の領域に片足を踏み込むことになる訳だからね」
「神の領域?」
「ええ。そうね、街一つぐらいなら消し飛ばせると思うわよ。とても簡単に」
「…………これはどんな魔法なんですか?」
「さぁ。そこまでは私も知らないわ。稀有ではあるけれど、そこまでの魔法は見たことがあるというだけだもの。その先は一人だけ昔居たから知っているだけ」
「その一人はどうなったので?」
「そうね、過ぎた力だったようで、直ぐに器が壊れたわね」
「そうですか……ありがとうございます」
ヒヅキはどこか含みのある笑みを浮かべている様な気がするウィンディーネから視線を切ると、前を向いて歩き出す。自分の魔法について少しだけ進展があったものの、先に居た者の末路はろくでもないモノであったようだ。