遺跡調査25
後ろからウィンディーネが付いてきている気配を感じつつも、ヒヅキは極力それを気にしないようにする。気にするだけ無駄なような気がしてきたし、気にしたところで今はどうしようもない。
そのまま歩き続けたヒヅキは、朝には森を抜けることが出来た。そのまま真っすぐ北進する。
(この辺りの何処かに村が在るはずだが……)
森を抜けて半日ほど歩いたところに村がある事をプリスから聞いていたヒヅキは、まずはその村を探す。目的の遺跡は、その村から東の方に聳える山の中に在るという話だった。
(流石にまだ人の気配は無いか)
周囲の気配を探るも、人の気配は感じられない。
(さて――)
「あら、何かお探し?」
背後からの声に、ヒヅキは思考を中断させる。
「ええ、近くに村が在るはずなのですが」
「村、ねぇ」
そう呟くと、ウィンディーネは何かを探るように1秒ほど目を瞑った。
「向こうに村っぽい何かが在るわね」
ウィンディーネは北西側を指差す。
「分かるのですか?」
「これぐらいは簡単よ」
何でもないと笑うウィンディーネに、ヒヅキは感謝の言葉だけを送り、ウィンディーネが指示した方角に向かう。
そこから一二時間ほど歩くと、そこにはウィンディーネの言葉通りに村があった。しかし、やはり人の気配は無かった。
「うーん。これは誰かが荒らしていった後のようね」
「ん?」
ウィンディーネの言葉に、ヒヅキは首だけで振り返る。
「この村よ。誰かが家の中の物を持っていったみたいね」
「…………」
それを受けてヒヅキは村を見渡してみるも、荒れている雰囲気はない。
「誰も居なかったから丁寧に侵入したみたいよ」
そんなヒヅキに、ウィンディーネがそう付け加える。
「なるほど」
それに一つ頷くと、ヒヅキは村の中へと入っていく。
小規模な村のようではあったが、人が居なくなってそこまで経っていない様子だった。そして、しばらく村の中を歩いてみると、ウィンディーネの言葉が理解出来た。
「確かに、どこもかしこも侵入した痕跡がありますね」
扉が派手に壊されているとか、家の壁に大穴があいているとかはないものの、不自然に扉だけが僅かに開いていた。中には窓が風で小さく揺れている家もある。
ヒヅキは足下に目を落とすも、流石に村の中なので、足跡などは無数にあった。
「ウィンディーネが見たという先客ですかね?」
「さぁ。そこまでは判らないわね」
二人はそのまま村を一周すると、村を出て東を目指す。
「あら、何もしなくてよかったの? 探せば使える物がまだ一つや二つあったかもしれないわよ?」
「ウィンディーネのおかげで食料の補充は済んでいますので、他には欲しいものはありませんね」
「そう? それならいいけれど」
それだけ言うと、ウィンディーネはヒヅキの後ろを静かに付いてくる。そのまま約一日進むと、背の高い山が道を塞いでいた。