遺跡調査23
しばらくしてヒヅキの腹が満ち、木の実もそれなりに採れた後、ヒヅキは木の上から降りてウィンディーネの前に移動する。
「食料を分けていただきありがとうございます。おかげで当分は食料に苦労しないでしょう」
「ふふ。それは良かったわ。それで、ヒヅキはこれからどうするつもりなの?」
「森の先を目指すつもりです」
「あら、食料が足りなかったかしら?」
「いえ、十分量頂きました」
「では、森の先に何をしに行くの? この先も今は何もないわよ?」
「……ええ、実はこの先に在るという遺跡を目指していまして」
「遺跡、ねぇ。そこには何が在るの?」
「分かりません。ですから見に行くのです」
「あら、面白そうね。その返答は気に入ったわ」
ウィンディーネは、ころころと楽しげな笑い声をあげる。
「なら、この前ここを通った者も遺跡に向かったのかしら?」
「……誰か通ったので?」
ヒヅキの脳裏に、遺跡での襲撃者の姿が浮かぶ。
「ええ。ヒヅキがこの森に入ってきた何日か前だったかに一人ね。でも、あれはヒヅキとは違う種族だったわね」
「何の種族だったか分かりますか?」
「分からないわね。興味が無かったもの。それに、私は別に種族に詳しくないもの」
「そうですか」
「ええ。種族が違うのだけは分かるけれども、私に言わせれば、どの種族も似たような存在ですもの」
軽く肩を竦めたウィンディーネに、ヒヅキはそうだろうな、と独り納得する。それだけウィンディーネという存在は他と隔絶した存在であった。
「ま、だからこそ、ヒヅキは私を楽しませてくれているわよ。貴方、随分と面白い存在だもの」
そう言うと、ウィンディーネはスッと目を細めてヒヅキに向ける。雰囲気も先程までの楽しげなものから、妖艶な鋭さを秘めたモノに変わっていた。
「あなたのような方にそう評価して頂けるのは光栄ですね」
それをヒヅキは笑みを浮かべて正面から受け止める。
「ふふ。そういう所もお気に入りよ。それと、ヒヅキには私の事をウィンディーネと名前で呼んでほしいわ」
鋭さは無くなったものの、未だに妖艶な雰囲気を漂わせるウィンディーネに、ヒヅキは笑みの裏で警戒を強める。内心では冷や汗をかきっぱなしであった。
現在のヒヅキは万全の状態ではあるが、ウィンディーネは戦って勝てる相手ではないだろう。それでも逃げに徹しさえすれば、まだ何とかなる可能性はある。
「分かりましたウィンディーネ。それでは私はそろそろ先に進みたいのですが」
「ええ、構わないわよ?」
「それでは、食料有難う御座いました」
空はまだ暗いものの、ヒヅキはそう礼を言って森の先を目指す。ウィンディーネに背を向けるのは緊張したが、何かしてくるという事はなかった。