遺跡調査20
しばらく休んだヒヅキは、立ち上がり移動を開始する。
それから北進を続けること一日。ヒヅキは森の中に入っていた。
(この森の中に食べられる木の実でもないものか)
地面や木の上へと目を向けながら、ヒヅキは何か食料となるものはないかとはないかと探索しつつ先へと進む。
(ついでに湧き水でもあればいいのだが)
そう思い、目だけではなく耳も澄ましながら森の中を移動する。
それから半日ほど歩いたか、思った以上に広大な森の奥地に辿り着いたヒヅキは、木に寄りかかり身体を休めていた。
「ん?」
その違和感に、ヒヅキは顔を上げて周囲に目を向ける。
(何だ? この感覚は)
身体の芯が冷えるようなそんな感覚ではあるが、それは恐怖とはまた別のモノであるように思えた。
ヒヅキが周囲に目を向けていると、一人の女性の姿が目に留まる。
その女性は人間のような見た目をしているも、この世のモノとは思えぬほどの美を有していた。常人であれば、老若男女問わず魅了されてしまうだろう程に。しかし、その女性が人間ではないと、ヒヅキは直観で見抜く。
(あれはなんだ? 外見は人間のようだが、記憶にない種族だな)
どこが人間とは違うのか、それをヒヅキは明確に言葉に出来ないものの、それでも人間ではないという事と、記憶に存在しない種族である事、まだ敵ではないという事は理解出来ていた。
それでも、ヒヅキはその女性に見つからないように、自分の存在を出来る限り秘する。敵ではないからといって味方とは限らない。それに、見つかった瞬間に敵対するかもしれない。
どれぐらいそうしていただろうか。数分から長くとも十数分程度の時間であろうが、ヒヅキの感覚的には少なくとも数時間は経っているであろう時が過ぎ、女性の姿が見えなくなった。
(いや、まだだ。まだ近くに居る……気がする)
それでも、ヒヅキの勘がそう告げてくる。
姿は確認出来ないし、気配は感じられない。それでも、確かに近くに居る感じがするのだ。そして恐らく、その女性は全力のヒヅキとほぼ同等の実力者である事も何となく察していた。
(自分が同等と思う相手は格上だと思え、か)
それは誰の言葉だったかは覚えていないが、おそらく何処かの書物で見かけた言葉だろう。ヒヅキの頭に不意にそんな言葉が浮かんた。
(ならば、遭遇しないに越した事はない)
そう思い、一層存在を消していく。もはや限界まで存在を薄めていた。
(まるで猛獣を眼前にした獲物の気分だな)
そんな自分の状態に、ふとそんな思いが湧いてしまい、僅かに呆れた様なおかしい様な気分になる。そんな微かに緩んだ一瞬の隙間にするり滑りこむように。
「あら、こんなところで何をしているのかしら?」
耳元で女性の思わず聞き惚れそうな美しい声が囁かれ、ヒヅキはゾッとする嫌な寒さが背中を駆け巡ったのを感じた。