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 宿屋を後にしたヒヅキは、まずは近くにある知り合いの店に何軒か顔を出すと、大通りを歩きながら露店に目をやる。

 服や靴などの布や革製品を扱っている店があれば、彫刻刀から大剣まで幅広く取り扱っている露店もあった。

 武器だけではなく防具を専門に売っている店もあったが、そのどれもがいくつもの店の共同経営なのか、店の数が少ない分、店の面積が他より広くとられていた。

 ヒヅキは石畳を叩くコツコツという耳心地のよい足音を聞きながら、そんな露店を眺め歩く。

「こうやって改めてみると、色々なものが売ってるんだな」

 日用品や武具、食べ物に家具によく分からないものまで、本当に様々なものが売り出されていた。

 そんな中、ヒヅキはとある露店の前で足を止めた。

「いらっしゃい」

 暗い雰囲気の店主が足を止めたヒヅキに反応して、それでも興味無さげそう言葉をかけてくる。

 ヒヅキは到底商売をしているとは思えないそんな店主の態度を気にした様子もなく、露店に並ぶ商品のひとつを見つめていた。

 この露店が売っているものは本であった。といっても、どれもこれも古びていて、とても商品と呼べる代物ではなかったし、その店先に並ぶ本はヒヅキにとっては全て読んだことのある本ばかりであった。

 だからこそ、一瞬なぜ自分が足を止めたのか理解出来なかったヒヅキだったが、店先の隅の目立たない位置に置かれていた本が目に映り、ヒヅキは自分の行動に納得した。そこには、見たことのない本が一冊だけあった。

「これに興味があるのかい?」

 ヒヅキの視線に気づいた店主が、その本を視線だけで指し示す。

「ええ、まぁ」

 それにヒヅキが頷き返すと、店主はその本を手に取りヒヅキに差し出してくる。

「中身を確認するかい?気に入ったんなら買っていっておくれよ」

 ヒヅキは礼を言って店主から本を受けとると、表紙に目を落とす。

「時を越えた旅人………?」

 聞いたことの無い題名に、ヒヅキは僅かに心が踊ったのを自覚する。

 表紙をめくると、それは絵本のようであった。

「童話か?」

 ヒヅキはパラパラとページを捲って中身を確認するも、その絵本の内容はあまり理解できなかった。しかし、何故だかそれはどこか懐かしさを感じさせる代物であった。

「……………」

 ヒヅキは一度表紙を撫でるように触れると、もう一度そっと本を開くのだった。

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