遺跡調査17
通路の安全を確かめたヒヅキは、念のためにと、骸骨の鎧を手にしたまま通路に入る。
(……ふーむ)
安全が確認出来ている場所まで歩いては、一度周囲を確認してから手に持つ鎧の一部を通路の先へと投げる。それが終わると、通路を進むついでに投げた鎧の一部を回収し、それを更に投げて先の安全を確認していく。
そんな事を繰り返して慎重に進んでいると、やっと通路の終わりに辿り着いた。
「……仮面?」
通路の先に続いていたのは円形の小さな部屋で、室内を魔法の仄かな明かりが照らしている。
部屋の正面には、目線の高さに一つの仮面が飾られていた。眼の部分に赤と青の宝石が嵌っており、魔法の光を妖しく反射している。その他には特に何も見つからない。行き止まりのようだ。
ヒヅキは警戒をしながらも、その仮面に近づく。
(木で出来てるのか?)
その仮面は木をくり貫いて作られた代物で、今までとは違い動く気配はない。
ヒヅキは暫く仮面を観察すると、周囲に目を向ける。
(誰もここまでたどり着けていないのか)
この場所が出来てからは人跡未踏であることに気がつくと、ヒヅキは仮面を一先ず置いて、慎重に周囲の観察を行う。
(何か仕掛けの様なモノはない……のか?)
ヒヅキは戸惑いながらも、壁や床に手を触れていく。天井は手が届く高さではなかった。
(周囲には何も無しか)
一通り部屋を調べ終えたヒヅキは、仮面の前まで戻ってくる。
(やはりこれだけか)
ヒヅキは意を決してその仮面に手を触れると、そのまま持ち上げてみた。
(軽いな。それにこの瞳の部分の宝石は魔力で出来ているな、魔鉱石か? それにしては大きいが)
魔鉱石は元が鉱石なだけに宝石に似て色とりどりな場合が多いものの、大きなものは人工物だとしてもかなりの希少品だ。少なくとも、ヒヅキは目の前の仮面に嵌め込まれているような、こぶし大ほどの宝石の瞳は初めて目にした。普通は小指の先ほどもあれば十分と言われている。
(他には……)
ヒヅキは仮面を裏返したり、逆さにしたりして調べてみるも、魔法の文字が書かれているなどの変わった部分は無かった。そのまま仮面が掛けてあった場所に目を向けると、横穴があいていた。
人が通る為の穴ではなく、それは何かを置いておく為に掘られた小さな穴。
その穴の中をヒヅキが覗き込んでみると、そこには何か液体が入った小さな瓶が数本と小袋、それに小箱が一つ置かれていた。
ヒヅキは穴の中からそれらを取り出すと、一つ一つ慎重に確認していく。
(小瓶の中身は分からないが、小袋の中には……親指大の魔鉱石が沢山入ってるな。小箱の中は……水晶の欠片か? 何でこんなものが丁寧に箱に仕舞われているんだ?)
ヒヅキは地下であるために少し悩みつつも、小瓶の蓋を少し外して中の液体のにおいや色を確かめてみる。中身は少々刺激臭がするだけで無色であった。しかも小瓶の中身は全てが同じという感じでもなかった。それらは薬のようではあったが、今はこれ以上調べられないとヒヅキは諦める。
魔鉱石の入った袋はそのまま持っていき、丁寧に小箱に入れられた水晶の欠片も小箱ごと持っていく事にした。
(あとはこいつか)
ヒヅキは残った仮面を手に取ると、これをどうしたものかと思案を始めた。